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「君を見かけたのでね。……隣、いいかな?」
「え? ああ、うん、いいわよ」
智哉君は黙って私の隣に腰を下ろした。
「……」
「……」
やだ。
何を話していいのかわからない。私、どうしちゃったのかな。
「……子犬」
「え?」
「子犬のこと、覚えているかい? 2人で拾った」
「あ、うん」
そう、子犬。
昔、私と智哉君がずっと小さかった頃。
ここで、子犬を拾ったの。私は絶対に子犬を飼いたくて、でも許してもらえなかった。……あたりまえよね。うちは、共働きだし。
このままじゃ子犬が死んじゃうと泣く私をみて、智哉君は言った。
――僕がなんとかするよ。
――僕がなんとかするから、泣かないで。そのかわり――
結局。
智哉君は町中を駆けずり回って。
私の代わりに、子犬を飼ってくれる家を見つけてくれた。
――もうだいじょうぶ。だからね、笑ってよ。
――そして、ヤクソクを……。
「約束、覚えてる?」
「……」
思い出した。けれど、私はわざと黙っていた。
「僕だけのものになるって。ずっと、僕と一緒にいるって」
「……昔の、話じゃないの」
「そうだね」
「……そうよ」
「でも、僕はずっと覚えてるよ。……かなたちゃんが、嬉しそうに頷いた顔もね」
「智哉君……」
「もし君が白い小鳥で……、王子が他の誰かだとしたら、僕は、王子を許せないかもしれない」
「……」
「だけど現実は、白い小鳥は僕みたいだけれどね」
「……!?」
そのまま。
私たちは何も話せずに。
ずっと、ずっと……2人でそこに佇んでいた。
学校から帰る途中、今日はちょっと寄り道して、スーパーに行った。
そろそろ食材がなくなるからと思って、つい買いすぎちゃった。持って帰るのが大変って思ってたんだけど。
「荷物はここに置いておけばいい?」
途中でばったりと出会った智哉君のおかげで助かっちゃった。
「智哉君、荷物持ちさせちゃってごめんね。どこかに行く途中じゃなかった?」
一度家に帰ったらしく、智哉君は私服に着替えていた。
「ちょっと本屋さんにね。たいした用事じゃないよ。それにしても、いつもこんなにたくさん買い物してるの?」
「毎日行くわけじゃないから」
毎日ってわけじゃないくても、3日に1回は行ってる気がするなあ。
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