第1章

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 「君を見かけたのでね。……隣、いいかな?」  「え? ああ、うん、いいわよ」  智哉君は黙って私の隣に腰を下ろした。  「……」  「……」  やだ。  何を話していいのかわからない。私、どうしちゃったのかな。  「……子犬」  「え?」  「子犬のこと、覚えているかい? 2人で拾った」  「あ、うん」  そう、子犬。  昔、私と智哉君がずっと小さかった頃。  ここで、子犬を拾ったの。私は絶対に子犬を飼いたくて、でも許してもらえなかった。……あたりまえよね。うちは、共働きだし。  このままじゃ子犬が死んじゃうと泣く私をみて、智哉君は言った。  ――僕がなんとかするよ。  ――僕がなんとかするから、泣かないで。そのかわり――  結局。  智哉君は町中を駆けずり回って。  私の代わりに、子犬を飼ってくれる家を見つけてくれた。  ――もうだいじょうぶ。だからね、笑ってよ。  ――そして、ヤクソクを……。  「約束、覚えてる?」  「……」  思い出した。けれど、私はわざと黙っていた。  「僕だけのものになるって。ずっと、僕と一緒にいるって」  「……昔の、話じゃないの」  「そうだね」  「……そうよ」  「でも、僕はずっと覚えてるよ。……かなたちゃんが、嬉しそうに頷いた顔もね」  「智哉君……」  「もし君が白い小鳥で……、王子が他の誰かだとしたら、僕は、王子を許せないかもしれない」  「……」  「だけど現実は、白い小鳥は僕みたいだけれどね」  「……!?」  そのまま。  私たちは何も話せずに。  ずっと、ずっと……2人でそこに佇んでいた。  学校から帰る途中、今日はちょっと寄り道して、スーパーに行った。  そろそろ食材がなくなるからと思って、つい買いすぎちゃった。持って帰るのが大変って思ってたんだけど。  「荷物はここに置いておけばいい?」  途中でばったりと出会った智哉君のおかげで助かっちゃった。  「智哉君、荷物持ちさせちゃってごめんね。どこかに行く途中じゃなかった?」  一度家に帰ったらしく、智哉君は私服に着替えていた。  「ちょっと本屋さんにね。たいした用事じゃないよ。それにしても、いつもこんなにたくさん買い物してるの?」  「毎日行くわけじゃないから」  毎日ってわけじゃないくても、3日に1回は行ってる気がするなあ。
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