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「佐倉先輩ならお似合いです。ちょっと悲しいですけど、僕、お2人のこと、応援してますからね!」
「あ~あ。つまんねえーの。ユーゴ、行くぞ。どっか遊びに行こうぜ」
「ああ」
とうわけで、あんなに賑やかだったリビングは、私と智哉君の2人きり。
「僕の一存で悪かったね」
「ううん。驚いたけど、このぐらいした方がいいのかもね。私たち、ずっと友達だったし」
「そう言ってくれると嬉しいよ」
「ねえ、智哉君。せっかく2人きりになったんだし、ゆっくりお茶しない?」
「そうだね。君をもっと見ていたいし」
「智哉君……」
そんなふうに言ってもらえるのは照れくさかったから、私はパタパタとキッチンへ逃げて行った。
本当は、ちょっと……ううん、かなり嬉しかったんだけど……。
「えっと……確か、この辺りの棚だったと思うんだけど……」
山井……山川……だから、もう少し先かな?
もう。どうして“山”のつく名前の著者ってこんなに多いんだろう。なんて思い始めた頃、智哉君がヒョイッと私の手元を覗き込んできた。
「ああ。その本なら、もう1つ向こうの棚だよ」
「あ、智哉君。ありがと」
「本を片付けにきたってことは、かなたちゃんのレポートもそろそろ終わりみたいだね」
「うん。後はまとめを書いたら終わり。智哉君が手伝ってくれたおかげで、早く終わったよ。ありがと」
「どういたしまして」
「じゃあ、この本、置いてくるね」
「ああ、じゃあ、僕もついでに」
「あれ? 智哉君は、もうレポート、終わってたんじゃなかったっけ?」
「レポートは終わったんだけどね。その人の奥さんで、西洋の伝承を研究してる人の本が読みたくて」
「西洋の伝承?」
「そう。透さんから借りた本を読んでいたら、気になったことがあってね。現地では、どんなふうに言われているのか知りたくなったんだ」
「現地って?」
「セイレーンも、人狼も、吸血鬼も西洋の魔物だからね。その辺りの民間伝承でどういうふうに言われているのか、知りたくなったんだよ」
「智哉君って、本当に勉強が好きだね」
「ふふふ。でも、こんなのは、口実かな?」
「えっ? 口実?」
「一瞬でも君から離れずに済むようにね」
「智哉君……」
「はは。照れた顔がかわいいね」
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