第1章

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 「智哉君も美琴ちゃんもいないのね。どうしよう、今日は1人で帰ろうかな」  「佐倉くーん、ここわからないの、教えて!」  「今日一緒に帰ろうよー」  「佐倉君、私と帰ろう!」  「智哉君が人気あるのは知ってたけど、こうやって改めて見せられると……これじゃ、近寄れないもの。1人で帰ろう」  「あ、ちょっと待って、かなたちゃん」  「え?」  「一緒に帰ろうよ」  「え、で、でも」  「ふふ、何を遠慮してるんだい?」  「やだ佐倉君、手なんて握らないでー!」  「ちょっとー、私たちと帰ろうよー!」  「と、智哉君、みんな怒ってるよ」  「別にいいんじゃない? 怒られることは何もしてないよ。僕は君と一緒に帰りたいんだからね」  「でも」  「ふふ、気にすることはないよ。昔はこうやって手を繋いで帰っただろう?」  「それって、小学生の時の話じゃない」  「いいからいいから」  「う、うん……」  今日は休日。  私は智哉君と遊ぶことにした。  「……折角お出かけできると思ったのに、なんで休日に学校の図書館に来ないとならないのっ?」  智哉君がいい所に連れて行ってくれるなんて言うからどこかと思ってうきうきしてたら……。  お休みの日まで学校になんて来たくないわよ!  「だって、月曜日までの数学の宿題、まだ出来てなんだろう?」  「明日やろうと思ってたの!」  「ふふ、君の明日は信用できないからね」  こういう時、長年のつき合いって嫌になっちゃう。  行動とか、考えていることとか、全部ばれちゃうんだもの。  はあ、私の大嫌いな数学。  なんで宿題なんて出すんだろう。もっと自主性を重んじてくれたっていいじゃない。  「どこかわからない所はある?」  「1問目の、ここ」  「他は?」  2問目のここと、3問目のここと、4問目のここと……」  「おいおい、もしかして全部じゃないのかい?」  「全部、わかんない」  「ふう、やれやれ、どうしてかなたちゃんは勉強嫌いになってしまったんだろうね」  「智哉君のせいよ」  「え?」  智哉君が私を甘やかすから、こんなになっちゃったんだもん」  ああ、私って最低。  こんなこと、智哉君のせいじゃないのに。智哉君、怒ってるよね。  ……あれ?  「ふふ、そう言われると、怒れなくなるね。だって、確かに僕が甘やかしたりしたからだし」
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