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いつもの定位置に腰を下ろして智哉君を待つ。遠くに智哉君たちのにぎやかな声が聞こえる。
趣味のおじさまと専業主婦のおばさま。
遠くにいるパパと忙しいママを待つ私には憧れだった。
でも、昔からふたりは私を自分の娘のように扱ってくれている。
それは、ほんとうに嬉しいことだった。
「お茶、持ってきたよ。君のお土産のタルトも」
「ありがとう。かぼちゃのタルトはおばさまが好きだから、朝から気合いを入れてつくったのよ」
あの3人の魔の手から死守するのは、本当に大変だったんだから!
「へえ、やっぱりくわしいね。母さんのことも」
「そりゃあお付き合いは長いもの。智哉君には話せないことだって話せちゃうし」
「僕に隠し事かい?」
「ふふ。女同士の秘密よ」
「参ったな。……さっきはごめんよ」
智哉君たら突然、神妙な顔をして。どうしたのかな。
「え? なにが?」
「父さんと母さんが勝手に盛り上がったりして、女の子が欲しいとか」
「ああ、そのこと? ぜんぜん気にしてないわよ。おじさまとおばさまが言いたいこと、私もわかるもの」
「え……」
「だって私たち、兄妹みたいだと思わない?」
「……」
「智哉君?」
あれ?
「僕も、大事な妹だと思っているよ」
よかった。笑ってくれた。
……って、私ったらなんで緊張しちゃったんだろう。自分で言い出したことなのに。
「あっ」
なんだかあわててしまって、私専用のティーカップを落としてしまった。
「大丈夫かっ!」
「平気。ごめんなさい……痛っ」
粉々になったかけらに手を伸ばしたら、指先を切ってしまった。
「ほら、言ってる先から……見せてごらん」
「うん……えっ」
智哉君、私の手をつかんで、指先を見つめて、ぺろり。
「ちょっ……智哉君?」
「なに?」
「なにって……そんな、ひゃっ!」
また、ぺろり。
「これくらいの傷なら、舐めておけば大丈夫だよ」
「そうだ、けど……」
「ふふ。昔はいつもこうやって治してあげたじゃないか」
そうだ。
子供の時はとろくさかった私が転んで膝をすりむいたりしたとき、智哉君は泣いている私をなだめてくれたっけ。
『大丈夫?』って、おろおろしながら智哉君は今みたいに。
そう、今みたいに優しい顔をして治してくれたんだ。『もう心配いらないからね』って。
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