第1章

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 いつもの定位置に腰を下ろして智哉君を待つ。遠くに智哉君たちのにぎやかな声が聞こえる。  趣味のおじさまと専業主婦のおばさま。  遠くにいるパパと忙しいママを待つ私には憧れだった。  でも、昔からふたりは私を自分の娘のように扱ってくれている。  それは、ほんとうに嬉しいことだった。  「お茶、持ってきたよ。君のお土産のタルトも」  「ありがとう。かぼちゃのタルトはおばさまが好きだから、朝から気合いを入れてつくったのよ」  あの3人の魔の手から死守するのは、本当に大変だったんだから!  「へえ、やっぱりくわしいね。母さんのことも」  「そりゃあお付き合いは長いもの。智哉君には話せないことだって話せちゃうし」  「僕に隠し事かい?」  「ふふ。女同士の秘密よ」  「参ったな。……さっきはごめんよ」  智哉君たら突然、神妙な顔をして。どうしたのかな。  「え? なにが?」  「父さんと母さんが勝手に盛り上がったりして、女の子が欲しいとか」  「ああ、そのこと? ぜんぜん気にしてないわよ。おじさまとおばさまが言いたいこと、私もわかるもの」  「え……」  「だって私たち、兄妹みたいだと思わない?」  「……」  「智哉君?」  あれ?  「僕も、大事な妹だと思っているよ」  よかった。笑ってくれた。  ……って、私ったらなんで緊張しちゃったんだろう。自分で言い出したことなのに。  「あっ」  なんだかあわててしまって、私専用のティーカップを落としてしまった。  「大丈夫かっ!」  「平気。ごめんなさい……痛っ」  粉々になったかけらに手を伸ばしたら、指先を切ってしまった。  「ほら、言ってる先から……見せてごらん」  「うん……えっ」  智哉君、私の手をつかんで、指先を見つめて、ぺろり。  「ちょっ……智哉君?」  「なに?」  「なにって……そんな、ひゃっ!」  また、ぺろり。  「これくらいの傷なら、舐めておけば大丈夫だよ」  「そうだ、けど……」  「ふふ。昔はいつもこうやって治してあげたじゃないか」  そうだ。  子供の時はとろくさかった私が転んで膝をすりむいたりしたとき、智哉君は泣いている私をなだめてくれたっけ。  『大丈夫?』って、おろおろしながら智哉君は今みたいに。  そう、今みたいに優しい顔をして治してくれたんだ。『もう心配いらないからね』って。
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