第1章

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 美琴ちゃんに口をふさがれて声はかけられなかったけど、確かに智哉君だった。それと、女の子が一人。下級生かな?  女の子は真っ赤な顔をして泣きそうで、智哉君はずっと微笑んでいた。  「……これ」  ピンク色の封筒。それがラブレターってことは、説明なしでもわかる。  「……ありがとう」  ドキ……。  すっごく優しい笑顔……。そうよね、智哉君、優しいものね……。   「お、お返事お待ちしています!」  その子は恥ずかしそうに顔を両手で覆って、かけて行った。  「……」  ……え?  智哉君、今、なんだかとても怖い目をしてた……?  「いや~つらいね色男はっ!」  「みっ美琴ちゃんっ!」  女の子がいなくなったので、そっとこの場から逃げようと思っていたのに、美琴ちゃんったら!  「やあ、見られてたのか」  智哉君もぜんぜん動揺してないしっ!  「壁に耳あり障子に美琴ありって言ってね。で、どうするのそのラブレター?」  あんなに優しく微笑んだもの……きっと……。  「捨てるよ」  って、ええっ!?  「うわ、残酷」  「その気もないのに、いい顔しても仕方ないだろう?」  ……そんな。  「……ひどいよ、智哉君」  「え?」  「捨てちゃうなんて、そんな、ひどいよ」  「ちょっ、ちょっと、ねえ……」  あれ。  あれ。私、泣いてる……?  「あの子、あんなに真っ赤になって、勇気を振り絞って告白したのに」  「……」  「それを、捨てちゃうなんて、ひどいよ……!」  「……ひどいのはかなたちゃんのほうだよ」  「え?」  智哉君はそう吐き捨ててから、私たちに背を向けて去っていった。  「……智哉君……」  「……追いかけな」  「え?」  「今のは、かなたが悪いよ」  「え?」  「ほら、ハンカチ貸すから! 顔を拭いてさっさと追いかける!」  「う、うん」  美琴ちゃんに背中を押されて、私はハンカチを握り締めながら駆け出した。  智哉君がどこに行ったのか、幼馴染に私にはわかっていた。  「きっと、あそこに……」  いた。  「智哉君……?」  図書館の、あまり日が射さない奥の席に智哉君はいた。  黙って、ぼんやりと、何を考えているのか分からない無表情で智哉君は座っていた。  「僕のいるところがよくわかったね」  ……よかった。智哉君はあの怖い目をしていない。
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