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美琴ちゃんに口をふさがれて声はかけられなかったけど、確かに智哉君だった。それと、女の子が一人。下級生かな?
女の子は真っ赤な顔をして泣きそうで、智哉君はずっと微笑んでいた。
「……これ」
ピンク色の封筒。それがラブレターってことは、説明なしでもわかる。
「……ありがとう」
ドキ……。
すっごく優しい笑顔……。そうよね、智哉君、優しいものね……。
「お、お返事お待ちしています!」
その子は恥ずかしそうに顔を両手で覆って、かけて行った。
「……」
……え?
智哉君、今、なんだかとても怖い目をしてた……?
「いや~つらいね色男はっ!」
「みっ美琴ちゃんっ!」
女の子がいなくなったので、そっとこの場から逃げようと思っていたのに、美琴ちゃんったら!
「やあ、見られてたのか」
智哉君もぜんぜん動揺してないしっ!
「壁に耳あり障子に美琴ありって言ってね。で、どうするのそのラブレター?」
あんなに優しく微笑んだもの……きっと……。
「捨てるよ」
って、ええっ!?
「うわ、残酷」
「その気もないのに、いい顔しても仕方ないだろう?」
……そんな。
「……ひどいよ、智哉君」
「え?」
「捨てちゃうなんて、そんな、ひどいよ」
「ちょっ、ちょっと、ねえ……」
あれ。
あれ。私、泣いてる……?
「あの子、あんなに真っ赤になって、勇気を振り絞って告白したのに」
「……」
「それを、捨てちゃうなんて、ひどいよ……!」
「……ひどいのはかなたちゃんのほうだよ」
「え?」
智哉君はそう吐き捨ててから、私たちに背を向けて去っていった。
「……智哉君……」
「……追いかけな」
「え?」
「今のは、かなたが悪いよ」
「え?」
「ほら、ハンカチ貸すから! 顔を拭いてさっさと追いかける!」
「う、うん」
美琴ちゃんに背中を押されて、私はハンカチを握り締めながら駆け出した。
智哉君がどこに行ったのか、幼馴染に私にはわかっていた。
「きっと、あそこに……」
いた。
「智哉君……?」
図書館の、あまり日が射さない奥の席に智哉君はいた。
黙って、ぼんやりと、何を考えているのか分からない無表情で智哉君は座っていた。
「僕のいるところがよくわかったね」
……よかった。智哉君はあの怖い目をしていない。
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