第1章

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 「だって、智哉君、考え事するときにはいつも図書館に行くもの」  私は不器用に笑ってみせた。  「ずっとそうだったもの。私は知ってるわよ」  「幼馴染だからかい?」  「うん」  そうして2人で少し笑った。  「ごめんよ、君を泣かせてしまったね」  「ううん、私が悪いの。私には関係ないことなのに、智哉君をなじってしまって」  「関係ない、か……」  ふと、智哉君がさみしそうに微笑んだ気がした。  「智哉君はいつでも優しいじゃない? そんな智哉君が私は大好きで」  智哉君は黙って私の話を聞いている。  「だから、誰かに冷たくする智哉君は見たくなかったの」  ああ、私ってどこまで我侭なんだろう。  「……まったく、君はどこまで残酷なんだろう」  「え?」  智哉君はやれやれといったふうにため息をついてみせた。  「かなたちゃんは僕のことならすべて知っていると思っているだろうけど、それは勘違いだよ」  「え?」  「僕が本当に優しくするのも、甘やかすのも、かなちゃんだけだよ」  「私、だけ……?」  「そう。……幼馴染の君だけ。それくらいは知っていてほしかったよ。残念だ」  笑いながら、智哉君は肩をすくめた。  「で、でも、智哉君は優しくて、誰からも好かれて、女の子からも人気がるじゃない……」  「そう、それが『僕』だからね」  「……?」  「本当の優しい僕は、君の前にしか姿を現さないってことさ」  ふう、と軽くため息をつくと、智哉君は私に優しく微笑んだ。  「ハンカチで涙を拭いたらどうだい? そんな顔で校内を走り回ったなんて、いい笑い者だよ」  「あっ、うん」  私はあわてて美琴ちゃんが貸してくれたハンカチで涙をぬぐった。  智哉君がにこにこしながら私が拭き終るのを待っているのがわかった。  「智哉君、嘘ついてる」  「なんだい?」  「いい笑い者だ、なんて、私にだってぜんぜん優しくないいじゃない」  …………  そうして今度はふたりで高らかに笑いあった。うん、いつもの智哉君だわ。  「あの手紙ことだけどね、捨てないであの子にそのまま返すことにしたよ」  「……うん」  「あの子のため……といより、君に悲しい顔をさせたくないからね」  「……」  「ああ、昼休みは終わりだ。一緒に教室に帰ろう」  「うん」
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