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俺はみずほに心を残したまま出発していた。
だからなのか。あいつの唇の温もりが……
まだ……俺の唇を覆っている。
あいつの悪戯っぽい仕草の裏に隠された、俺への恋心が痛かった。
(俺にそんな価値があるのだろうか? こんなに愛されても良いのだろうか?)
ずっとそう思っていた。
だからこそ真のエースになろうとしていたんだ。
俺の方から惚れたのに、今じゃみずほに先を越された感がある。
サッカーとアルバイトて忙しい俺に、親身になって勉強を教えたりしてくれた。
俺運動能力は長けているのに、頭はノータリンだった。
だから、『お前には勿体ない』と何時も言われていたんだ。
でもみずほはそんなこと気にすることもなく、同じ高校を選んでくれた。
それはみずほの愛そのものだった。
だから俺……
物凄く嬉しかったんだ。
『他の高校だと、通じないと思って此処に来たんだろ?』
みずほの胸の内も知らないくせに、心ないクラスメートが言っていた。
俺にはソイツの言い訳にしか聞こえなかった。
ソイツがそうしたのだと思ったんだ。
他のヤツ等もきっとそうだ。
みずほを目の敵にしていたのではないのだろうか?
確かに偏差値の高い高校へ行くと大変なことは判る。
勉強を必死にやらないと追い付けなくなるからだ。
その点俺の通っている高校はかなりレベルが低い。
其処で苦労するより楽して一番になろうとしたのではないだろうか?
何処の高校にも推薦入学の仕組みはある。
それを利用しようとしているのだろうか?
でもみずほは違う。
俺と離れたくなかっただけだ。
そんなこと見ていりゃ判るだろう。
アイツの仕草アイツの言葉。
一つ一つに俺への愛が溢れていたから……
みずほは何時も俺に気遣ってくれた。
成績優秀さをひけらかす訳でもなく、本当に気さくなヤツだった。
そんなみずほが何故自殺しなければならないのか?
合点がいかない。
いくはずがないのだ。
みずほは俺にとって掛け替えのないパートナーになるはずだった。
(あの時。何かがあったと何故思わなかったんだ。みずほはあんなに必死に俺を見つめていたのに!! もしかしたら俺に助けを求めいたのかもしれないのに……何故あの時気付かなかったんだ!!)
俺は自分自身に怒りの矛先を向けていた。
(あのキスは何時もと違っていたか?)
それでもそう考えた。
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