序章

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 『結婚を約束した恋人が最近冷たい。浮気をしているかどうか調査してほしい』 私は継母の保険証を提出しながらそう言った。 其処の探偵は本人の物だと思い込んだようだった。 その恋人こそが、継母と浮気させたい相手の担任だったのだ。 そう…… まだその時は二人共戸惑っているだけだったのだ。  私はイワキ探偵事務所に担任の素行調査を依頼してから毎日継母の行動を監視した。 そして遂にあの日になったのだ。 その日父は泊まりがけの出張だった。 家に帰らないことを知っていたからこそ、この日を選んだ訳だ。 私は友達と映画を見に行くと嘘をついた。 その時わざとチケットを忘れたのだ。 継母がそのことに気付いて、届けてくれることを期待して…… 担任には、チケットの片方が届く工夫をした。 そして映画館の前で二人の到着を待ったのだ。  継母はグレーのスーツだった。 実はそれは私からのプレゼントだった。 目立たない服装を見て、それほどまでに担任を愛しているとだ探偵に感じさせるためた贈った物だった。 担任は紺の上下。 普段のジャージ姿より断然格好いい。 もうそれだけで作戦は成功したと言えた。 担任の甘い言葉に心が解放される。 私はそう願っていた。 次第に打ち解けて恋人のように振る舞ってくれたなら嬉しい。 私は本気でそう思い願っていた。 映画館のチケットは、時間指定はあっても指定席ではない。 それでもそれをあえて用意した。 担任に、母を誘ってもらいたかったからだ。案の定打ち解けたらしい二人はラブホに入って行った。 私はハラハラしながら、二人の行動を見守った。 その時、磐城君を見たのだ。でも最初は誰だか判らなかった。でも次に現れたのが学生服に着替えていたから解ったのだ。  私はみずほに女装した磐城君を見たことを告白していた。 だって磐城君、物凄く可愛かったんだ。 そんな秘密を独り占めには出来なかったのだ。 そして二人で磐城君の後を付けたのだった。 「ねえ、言った通り磐城君可愛いでしょ?」 「うん。本当に……」 「ねえみずほ。後で強請ってやろうか」 私がそう言うとみずほと笑った。  磐城君のオジサンは元警察官で、自分の探偵事務所を構えていることもみずほに喋っていた。 私達はそのイワキ探偵事務所を見張ったのだった。  やはりみずほの彼はイワキ探偵事務所でアルバイトをしていた。 みずほはその事実を知らなかった。 「もしかしたらこれ」 そう言いながらみずほは磐城君から贈られたコンパクトを握りしめた。  私は登校する前に二人の浮気現場の写真を父に見せた。 私の世話をしたくないから結婚間近の恋人がいる部下をレイプした父を許せなかったのだ。 しかもその相手がこともあろうに私の担任だったのだ。 私は父が許せなかったのだ。だから心臓麻痺を起こしてやろうとしたのだ。 朝、父は苦しいそうだった。それが本当に死に結び付くかは運次第だ。 私は授業中落ちつかなかった。 本当は父に死んでもらいたくはない。 継母を恋人である担任に返してくれたらいいのだ。 そんな時、教室のドアが開いた。
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