突然のメール

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 俺は今。 自転車を必死に漕いで高校を目指している。 ――岩城(いわき)みずほが学校の屋上から飛び降り自殺したらしいよ―― さっき携帯に数字と記号の羅列だけのメールが届いた。 その岩城みずほは俺の恋人なんだ。 (嘘だーー!!!!!! そんな馬鹿な話しはない!) 俺はあの時、咄嗟にそう思った。 だってみずほとはさっきまで一緒だったんだ。 その時は何の素振りも見せなかったからだ。 恋人の俺に何も言わないでみずほが逝くはずがない。 頭がパニクって、大事な試合のあることも忘れて学校を目指していた。  (そうだった! これからサッカーの交流戦だった。でも今更遅い! 遅過ぎる!! 遅過ぎるんだよ……) 『明日の試合の出来具合を見て、新入生からレギュラーを決める』 昨日監督がそう言っていた。 恋人か? 試合か? 選べない! 選べる訳がない!! 俺の体が判断したのか…… 気の赴くままに。 いや! 俺自身の判断だ。 だから…… みずほの待っている学校へ急いでいるんだ! そうだ待ってる。 絶対に俺をおいて先に逝くはずがないのだから。 俺はみずほの待っているはずの高校へ向かって急き立てていた。  このチャンスを逃したら、当分レギュラーにはなれないことは判っている。 でも今更遅い! 遅過ぎるんだ! 俺は自称。サッカー部のエース。その自称を外したくて…… みずほのために本物のエースナンバーを付けたくて頑張って来た。 だって中学時代は本当にエースだったんだ。 背番号だって何時も《10》を付けていたんだ。 そう…… 誰もが憧れるエースナンバーを。 でももう後戻りは出来ない距離だった。 グランドに居る仲間に詫びながら、俺はとにかく学校へ戻ることを選択していた。 きっと今頃、監督にも連絡が届いているはずだから解ってくれていると思ったんだ。 俺はそれでもまだ試合会場に未練があった。 小さい頃からFC選抜で互いにライバル視していた橋本翔太(はしもとしょうた)に先を越されるかも知れないからだ。 でも今更戻れない。 みずほが待っているからだ。 (みずほ、俺が行くまで待っていてくれ。そしてあれは冗談だったと言ってくれ!) 俺はあのメールがジョークであることを期待した。 ま、そんなことされたら相手が愛するみずほであってもぶっ飛ばし物だけど……
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