俺とあいつ。

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歩き始めて10分。 もうすぐ駅だってのに、岸本はまださっきのことを聞いて来る。 「しつこいなぁ、もー!」 「お前が言わねぇからじゃん!嫌なことあんなら言えよ、黙ってられんのとか嫌だし」 嫌なこと? 嫌な、こと。 一瞬の間を置いて、俺はムッとした顔で岸本を見上げる。 「じゃあ言うけど、ガキ扱いすんな」 「え?」 驚いた顔の岸本を睨みながら、俺は足を止めて腕組みをした。 そのまま真っ直ぐに見返し、大きくハッキリと言葉を吐く。 「俺、ガキ扱いされんの超嫌い。頭撫でるとか小さな子供にすることだろ?」 そこまで言ったあと、キョトンとしていた岸本が当たり前のように言葉を返す。 「え。だってお前、俺よりもちっさいじゃん?」 「身長の話してねぇわ!!」 瞬間湯沸かし器のように真っ赤な顔のまま、俺はずいと岸本へ詰め寄った。 「頭撫でんな!嫌いなんだよ、ヤなこと思い出すの!」 報われないと分かっていても、先生を好きだったあの頃。 先生に恋をして良かったと思うのは本当だ。 でも。 あの苦しみはちょっと、もう思い出したくはない。 恋とか、もう。 当分いらないし。
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