511人が本棚に入れています
本棚に追加
歩き始めて10分。
もうすぐ駅だってのに、岸本はまださっきのことを聞いて来る。
「しつこいなぁ、もー!」
「お前が言わねぇからじゃん!嫌なことあんなら言えよ、黙ってられんのとか嫌だし」
嫌なこと?
嫌な、こと。
一瞬の間を置いて、俺はムッとした顔で岸本を見上げる。
「じゃあ言うけど、ガキ扱いすんな」
「え?」
驚いた顔の岸本を睨みながら、俺は足を止めて腕組みをした。
そのまま真っ直ぐに見返し、大きくハッキリと言葉を吐く。
「俺、ガキ扱いされんの超嫌い。頭撫でるとか小さな子供にすることだろ?」
そこまで言ったあと、キョトンとしていた岸本が当たり前のように言葉を返す。
「え。だってお前、俺よりもちっさいじゃん?」
「身長の話してねぇわ!!」
瞬間湯沸かし器のように真っ赤な顔のまま、俺はずいと岸本へ詰め寄った。
「頭撫でんな!嫌いなんだよ、ヤなこと思い出すの!」
報われないと分かっていても、先生を好きだったあの頃。
先生に恋をして良かったと思うのは本当だ。
でも。
あの苦しみはちょっと、もう思い出したくはない。
恋とか、もう。
当分いらないし。
最初のコメントを投稿しよう!