511人が本棚に入れています
本棚に追加
「嫌なことって、なに?」
ああ。
今度はそっちに興味が移動しましたか?
「ーーーーッいいからもう、頭撫でんなよな!」
怒鳴って言ったあと、俺は踵を返して大股で歩き始めた。
無神経!
マジで無神経だ、こいつ!
腹を立てる俺の横に、岸本はすぐさま追いついて来る。
この身長差だし、一歩の大きさがあまりにも違うのは分かりきっている。
「何だよ、春山。そこまで嫌がるってことは、女か?女関係?」
「うるさい、うーるーさーい!」
「あ!あれだ!好きな女に春山君て弟みたい~って頭撫でられてたとか?」
ズケズケと心の奥に踏み込んで来る岸本は、あながち外れていない言葉を俺に直接ぶつけて来る。
『 ガキ 』
そう言った先生は、いつも優しく見守る保護者の目をしていた。
ああ、届かないな、と。
あの笑顔を見るたびに、感じていたっけ。
もう、消化した。
消化した、けど。
今でも不意に、思い出すんだ。
俺がもう少し大人だったら、何かが少しは違っていたんだろうか?って。
まぁ。
実際、きっと何も変わらないけどさ。
「ーーーー…………ごめん」
不意に吐き出された謝罪の言葉に、びっくりして岸本を振り返る。
申し訳なさそうな顔の岸本は、何かが言いたげな目で俺を見つめていた。
「泣きそうな顔させて、ごめん」
「…………」
だから。
一言、余計なんだよ。
本当、無神経。
最初のコメントを投稿しよう!