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「(……もうちょっと近くで)」
変身することを忘れて、少女の姿をよく見ようと一歩前に踏み込んだ瞬間、
少女はぐるりと纏の方に顔を向けた。
急だった、急だったものだから、思わず纏は飛びあがって、そのまま地面に尻もちをついてしまった。
こちらに振り向いたことで、少女の顔つきがよく解った。
瞳はまるで翡翠のような薄緑色、白い前髪が左目を覆っており、
まるでお人形さんのような、幻想的な雰囲気を感じた。
「っ……」
少女は苦虫を噛み潰すように顔をしかめると、持っていた水晶を小さく掲げる。すると水晶から眩い光が発せられた。
「うわっ!?」
突然の発光に目を覆う纏。しかし発光は纏が目を覆った途端に納まり、再び手をどかせると、
空地には、誰も居なかった。
あたかも、最初からいなかったかのように。
「(……間違いない。あの格好といい、あの光……『想力(エモーション)』の反応だ)」
これではっきりした。彼女も自分と同じ、
魔法少女であるということを。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
しかし、あんな格好をした魔法少女は水無月支部には居ない。
その上、光を扱う魔法というのも初めて見る。
支部の方から連絡が来ないということは、支部も知らないような存在だと、学校に急いで戻る纏は思った。
「(もしかして、急きょ別支部から転属してきた……?だとしたら、今日は水無月支部に訪れる前で、『盗魔』が現れたから魔法少女に変身した。と思えば納得だね)」
あの時纏に目撃された少女は、やばいと思って姿を消した。
多分纏を一般人と見間違えたのだろう。
さもありなん、纏はまだ魔法少女に変身していなかったから、まさか同業者だとは思っていないはず。
「(……しかし、折角学校抜け出したのに、走り損だよ~)」
がっくりと項垂れる纏。もうすぐ昼休みが終わる頃だ。
魔法少女に変身して『盗魔』を倒すはずが、何とも骨折り損を強いられてしまった。
そんな矢先、持っていた携帯から着信音が鳴り響いた。
何事かと携帯を開いて、送られてきたメールの確認をする。
おおよそ、七たちからの催促メールかと思っていた。
もうすぐ授業が始まる時間でもあるので、それも十二分にあり得たが、
纏の送り主は全く違っていた。
『音無雀』
纏が所属する『ティンクルスターズ』水無月支部の支部長からのメールだった。
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