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いきなり、背中にドスンと強い衝撃が走った。
思い切り気を抜いていた龍聖は、その衝撃でその場に倒れ込んでしまった。
一瞬何が起きたのかわからず、背中に受けた傷みも相まって、目の前にチカチカと星が飛ぶ。
あまりに突然過ぎて、その衝撃の原因が後ろから走ってきた人間だと理解するのにしばらく――時間にすると数秒だが――かかってしまった。
「ってえ…」
「すっ、すいません!」
龍聖は声のする方をキッと睨みつけた。
――が、その瞬間、不思議な甘い甘い感情が自分の中に渦巻くのを感じた。
(花が…咲いたかと思った…)
心臓がトクリと波打つ。
白く美しい肌が空に透け、肩まで伸びたふわりと柔らかい髪が風になびき、背景の桜に溶け込んで――
――いたように見えたのは、どうやらただの目の錯覚だったようだ。
(なんなんだよこの田舎くさい女は…)
正気に戻った龍聖が目にしたものは、手入れのされていない切りっぱなしの爪、走ったせいでぼっさぼさになった髪、そして足首までだらしなく下がってしまっているハイソックス姿の少女。
制服こそ桜華学園の物だが、全てが今までに関わった同級生とは別物だった。
そう、龍聖にぶつかってきたのは他でもない真子。慌て過ぎてしっかりと前を見ていなかったのだ。
「ごめんなさい私慌ててて…あの、お怪我は…」
「平気だから」
オロオロしながら顔を覗き込む真子に、龍聖は倒れた時についた土埃をほろいながら、ぶっきらぼうに言った。
「でも…」
「いいから行けよ」
「はい…」
真子はペコペコと何度も何度も頭を下げてから走り出した。
龍聖は怪訝な顔をしながら、走り去る真子のことを目で追った。
「あんな奴、うちの学校にいたか?」
とにもかくにも、これが龍聖と真子の最初の出会いとなった――。
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