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春はうららか――。
厳しい冬も終わりを告げ、草花は芽吹き、優しい風とあたたかな日差しに皆胸を躍らせる穏やかな季節――に、けっして穏やかとは言えない状況の者がいた。
雪森真子(ゆきもりまこ)は、この春、念願叶って憧れの高校に合格した。そして今日はその高校の入学式だ。
そんな、本来なら幸せでいっぱいのはずのハレの日に、真子は今にも泣きそうな顔をして、肩まである髪を振り乱しながら、脇目もふらずに走っていた。
「ああもう!なんでこういう大事な日に…私の馬鹿!」
いつものように早起きし、いつものように朝刊配達のアルバイトを済ませ、家は余裕をもって早めに出た。
なのに、どうして通学途中の電車の中で居眠りなんてしてしまったのだろうか――
お陰で2駅も乗り過ごし、今にいたる。
真子は自分で自分の頭を殴りつけたい気持ちになった。
額にはじんわりと汗がにじみ、髪の毛が貼り付いている。
喉の奥がゼイゼイいって、息が上手く吸えず苦しい。正直、走るのは苦手だった。
と言うよりも運動全般が得意ではないのだが…。
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