恋の訪れ

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真子がこの春から通う桜華学園(おうかがくえん)は、幼稚部から高等部まで一貫したエスカレーター式で、通っている者のほとんどが一流財閥の御子息・御令嬢ばかりという、いわゆるエリート校だ。 入学金はもとより学費も非常に高額なため、外部入学者はほとんどおらず、幼稚部に入学してから高等部を卒業するまでの15年間メンバーがほぼ変わらないという、少し変わった学校である。 生まれた時から貧しい家庭で育ち、経済的ヒエラルキーで言えば下の下にあたる真子は、本来なら「ここにいるはずのない人間」。 ただし、桜華学園には授業料全額免除の特待生制度がある。 そのハードルは高く、よほど優秀でないと認められない。そのため、桜華学園ブランドに憧れ一般家庭から特待生を目指す者は多いが、実際に入学出来る者は一握りだ。 真子は、その高いハードルを乗り越え、特待生として入学の権利を勝ち取った、桜華学園にとっていわば異質な存在だった。 せっかくの気品漂うダークブラウンのブレザーも、急いで走ったせいでかなり乱れてしまっている。 真子が息を切らしながら走っているその横を、何台もの高級車が流れるように追い抜いていく。 全て桜華学園に向かう生徒を乗せた車だ。 異様とも言っていい光景だが、この学校にとっては珍しくもなんともない、普段通りの朝の風景なのだ。 (その角を曲がればすぐのはず!) 無情にも時を刻む腕時計とにらめっこをしながら、更に足を速めたその時。
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