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【3】戦争
当時は気づきようもなかったことだが、戦争も末期にさしかかっていたある日。
幸宏の元へ訪ねてくる男がいた。
「後藤?」
「久し振りだね」
後藤と名指された男は風呂敷包みを抱え、やあ、と手を上げた。
後藤は幸宏と同郷でひとつふたつ年上だった。幸宏が幼くして学校に入ったので年上の同級生で従兄の彰宏の後輩という位置づけだ。
後藤と再会したのは幸宏が進学した先の医学部でのこと。彼より一年早く入学していた後藤は先輩として接し、世話になった。
特に親しかったわけではない、が、妹を苛めなかった奴というだけでも好感度は高かった。
自室へ招き入れた幸宏に、遠慮なくと言いながら靴を脱いだ後藤は言った。
「噂には聞いていたが、随分と良いところに住んでいるんだね」
青山のアパートを指してのことだ。
「親父が借りてくれたんだ」
「うん、亡くなったそうだね」
「そう」
一瞬、二人の会話は閉じる。
「今日はどうしたの」幸宏は自分から話を差し向けた。
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