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田所さんが、更衣室の前までついてきてくれた。
車椅子から降りて、ひょこひょこ歩いていく。
更衣室のバッグから手帳を取りだしてすぐに戻った。
田所さんが「結構歩けるんですね」と言った。
「店長が、車椅子で過ごして売り場を見直すようにっておっしゃってるので」
「その方が回復も早いでしょう」
わたしの目を見ながら微笑む。
持田さんが田所さんの笑顔が良いと言うのは、本当に頷ける。
田所さんは、西君ほど整った顔をしているわけでも、
殿田さんのように爽やかな好印象を与えるわけでもない。
笑いかけてもらえると、どうしてか、ものすごくほっとするのだ。
「すみません、お待たせしました」
会議室へ戻る途中のエレベーターで田所さんに話しかけられた。
「水野さん、そんなに遠慮しなくても良いんですよ。
私が思いつきでやってきて、
準備もしていない君に突然難しい質問をしたんですから、
単純に無理だと言えば良かったんです」
会議室に戻った。
また同じ位置に座らされる。
「どんなメモをとったんですか?」
メモは走り書きと陳列棚の形程度だ。
メモを取ったページ開くと、田所さんが私の後ろに立ったまま、
手帳を覗き込む。
「ん? その電話番号、殿田の?」
別に何の問題もないのに、
わたしは書き込まれた番号を手で押さえてしまった。
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