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「そうですね。応急処置までしてもらって、
本当に迷惑をかけてしまいました」
「あいつの部屋ビジネスホテルみたいだったでしょう」
「そう……ですね」
資料を見たままの口元が笑う。
「殿田って筋肉質でしょう。
腕とかわざわざ鍛えてるんですよ。
女性からみて、ああいうタイプの腕の中ってどうなんだろうなあって」
田所さんの言葉に、夜景を見た場所でのやり取りを思い出してしまった。
顔を見られないように、俯いて手帳に目を通している風を装った。
「残念ながら、俯いたくらいでは誤魔化せませんよ」
わたしはますます顔が熱くなった。
田所さんが、声を抑えて笑っている。
様子をうかがうと眼鏡を外して、目頭を押さえていた。
「あんまりいじめて、これ以上嫌われると
今後の展開に悪影響を及ぼすので、
もうこの辺にしておきます」
田所さんがわたしを見た。
眼鏡をかけていないと、思っていた以上に目が大きくて
思わずじっと見てしまう。
「水野さん知ってますか?」
笑顔で問いかけてくる。
わたしは田所さんから目が離せなかった。
田所さんは視線を外すと、
眼鏡をかけて、またわたしを見た。
「私は関西の方の店にもよく行くんですよ」
田所さんがそう言う。
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