現状打破

21/28
4300人が本棚に入れています
本棚に追加
/670ページ
「そうですね。応急処置までしてもらって、 本当に迷惑をかけてしまいました」 「あいつの部屋ビジネスホテルみたいだったでしょう」 「そう……ですね」 資料を見たままの口元が笑う。 「殿田って筋肉質でしょう。 腕とかわざわざ鍛えてるんですよ。 女性からみて、ああいうタイプの腕の中ってどうなんだろうなあって」 田所さんの言葉に、夜景を見た場所でのやり取りを思い出してしまった。 顔を見られないように、俯いて手帳に目を通している風を装った。 「残念ながら、俯いたくらいでは誤魔化せませんよ」 わたしはますます顔が熱くなった。 田所さんが、声を抑えて笑っている。 様子をうかがうと眼鏡を外して、目頭を押さえていた。 「あんまりいじめて、これ以上嫌われると 今後の展開に悪影響を及ぼすので、 もうこの辺にしておきます」 田所さんがわたしを見た。 眼鏡をかけていないと、思っていた以上に目が大きくて 思わずじっと見てしまう。 「水野さん知ってますか?」 笑顔で問いかけてくる。 わたしは田所さんから目が離せなかった。 田所さんは視線を外すと、 眼鏡をかけて、またわたしを見た。 「私は関西の方の店にもよく行くんですよ」 田所さんがそう言う。
/670ページ

最初のコメントを投稿しよう!