第1章

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「……もう、駄目です……」 白は、燃え盛る炎の中一人の少女を抱えながら言った。 それは今まさに朽ち果てようとしている城の主、薊姫であった。 「ここで朽ちるのは俺とこの城だけで充分です。姫様は華紅羅と沙耶と共に逃げて下さ……」 「駄目よ」 薊姫は白の声を遮り、ゆるゆると首を横に振る。 「民を捨てて一人逃げ延びるなんて……城主として、一国の長として、これだけは譲れません」 「……では、せめてもっと安全な場所へ。俺の命に変えても、貴方様だけは……」 「貴方も民の一人。……そして、私の大切なひとでもある」 少女は白の頬に触れ、ゆっくりと微笑む。 「共に生きると誓ったでしょう?」 白はその言葉にふ、と笑みを漏らし、今までとは違った言葉を紡ぐ。 「……ったく。あんたはいつもそうだな」 「あら、それとも一緒に心中でもするつもり?」 白は微笑む薊姫を一層深く抱え、強い光を帯びた眼をき、と前に向ける。 「生きて一緒に出るぞ。……あまり期待はするな」 「それでこそ白ね」 白は力強く一歩を踏み出した。 「……んで、……何で……っ!?」 白は叫んだ。 その両腕に横たわるのは、右目を切りつけられておびただしい量の血を流す……薊姫。 「ご、めんなさい……ごめんなさい、ごめ……」 はらはらと涙を流す白の頬に薊姫は手を添える。 「貴方が危ないと思ったら体が勝手に動いてしまって……ごめんなさい、私は平気よ」 押し寄せる激痛に眉を寄せながら、子供を安心させるかのように笑顔で話す。 「約束したでしょ?……出ましょう、ここから」 薊姫の言葉で白は漸くゆっくりと頷き、薊姫を抱えて屍を跨いで歩き出した。 「……は、く……?」 「嘘、でしょ……?しっかりしなさい、馬鹿白!!」 「……そんな……」 血溜まりに埋もれた白は、放心している薊姫に笑いかける。 「……や、くそく……守れな、……」 「アンタここまで来たんでしょ!?早く姫様と逃げるんでしょ!?」 「……さ、な……ひめを、たのむ……」 「っうるさい!!アンタが守るんでしょうが!!こんな、……こんな所で……っ」 「沙那」 華紅羅は悲痛な顔で沙那を制す。 「……はく……?」 薊姫の声は、白には届かなかった。
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