第1章

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朝。 泣き止んだ眼は腫れていて、冷たいタオルで冷やす努力も虚しくどこか腫れぼったい。 うまく開かない両眼を擦ってのろのろと起き上がり、洗面台の前に立つ。 ……この顔は散々見てきた。 西園寺琥珀の顔。 そして、『白』の顔。 『俺』は死んだ『白』が転生したもの。 『神楽』は恐らく、『華紅羅』だ。 『沙那』は……昨日来ていた女生徒で間違いないだろう。 ……そして、薊姫。 保健室で見た、黒髪の少女…… 「……薊姫……」 誰が聞いている訳でもないが、口が勝手に愛しいひとの名を紡ぐ。 薊姫と白は、周りも知る恋仲であった。 『白』は最後に死を迎えてその恋は終わってしまったが。 転生した、今なら。 身分の縛りもないこの時代で、今度こそ。 俺は一人、恋人への想いを馳せていた。 「……おはよう」 下駄箱で神楽と遭遇する。 「……おう」 俺は短く返事をして、目を伏せる。 神楽は何も言わなかった。 俯いて、口元をきゅ、と結んでいる。 「あの後、……姫はどうなった」 「……!」 神楽はぱ、と顔を上げる。 「お前、記憶……」 俺は黙って神楽を見る。 察した神楽は苦笑う。 「お前が死んだ後、沙那が兄貴と姫様を連れて北に逃げた。……俺は間者の罪で逃げてたからそれしか知らない」 「……そうか」 俺は目を伏せると、神楽は笑った。 「……んな顔すんなって。お前は充分姫様を守ったよ」 その顔は穏やかで、前世の華紅羅を連想させる。 「……お前、昔みたいだな。あの時はずっと敬語だったっけ」 「あぁ。バイト先の店長に敬語が綺麗になったって褒められた」 俺も思わずふ、と笑う。 「なに笑ってんのよ」 後ろから聞こえる声に気付き体を反転させると、そこには沙那……らしき人がいた。 「……沙那か?」 「違う。漢字は同じだけど読み方は『さや』」 ふん、と鼻で笑うような態度は前のままだった。 「姫様の事は本人から直接聞きなさい。途中で死んだんだから」 沙耶は少し……いやかなり、怒っているようだった。 「お前、今度はちゃんと女に生まれたんだな」 「……喧嘩売ってる?」 神楽は苦笑した。 沙耶は今で言う、性同一性障害だったのだ。 「前は自由にオシャレとか化粧とか出来なかったけど、今は好きにやってるわ」 「……そう見える」 俺と神楽は化粧を見て、目を細めた。
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