第1章

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別に化粧を馬鹿にしている訳ではない。 前の沙那は、満足に女の姿も出来なかった。 男としての生を強要されていたのだ。 その時代は、まだ性同一性障害が認められていなかったからである。 薊姫に拾われるまで、その事で随分苦しんでいた。 それ故に、女としての生を謳歌している今の沙那に、俺と神楽は安心したような、心から喜ぶような視線を沙耶に向けたのだ。 「何よ二人して…気持ち悪い」 「お前…琥珀の兄弟かなんかか?」 「冗談でも嫌よ」 「お前ほんと変わんないな」 俺はため息をついて、下駄箱を開けた。 中には、封筒が入っていた。 「……!」 「……あ」 二人は固まった俺の下駄箱を覗いたあと、慌てて自分の下駄箱を見に行った。 戻ってきた二人の手にも、同じ封筒が。 「……これ、やっぱりそうだよね」 沙那は眉間に皺を寄せながら、呟いた。 「今居ない前のメンバーはあと三人しかいないだろ?忍の奴と、沙那の兄貴と…」 「……姫様……」 俺は呟いた。 封筒の中身を見ると、メッセージカードが入っていた。 『明日の放課後、3年6組の教室にて』 「……コレ」 「間違いない」 神楽は何か言おうとしていたが、俺は抑えられない高揚感を吐き出すように言った。 「これは、薊姫の字だ」 二人は、何も言わずに目を合わせた。 夢を見た。 あぁ、また『前』の夢か。 そう思った俺は、特に気にするでも無く夢の中の光景に目を向けていた。 前の俺が、人を殺すまでは。 突然、視点が前の俺に移る。 俺の視界に入っているのは、真っ赤な血に濡れた刃と自身の手。 『……ぁ……』 これは、人を殺した記憶。 自分の意志に関係無く記憶の中の体は動き、次々に人を斬る。 『……め、ろ……やめろ……っ』 精一杯叫ぶ……が、口すらも自分の思うままに動かせない。 『やめろ……やめてくれ……!!』 手に、体に、返り血が散る。 全身を赤く、赤く、染め上げて 油で滑る刃はなおも人を殺すために動く 俺の手で。 『……っぅ、ぁぁぁあああぁぁあぁああぁ!!!!』 誰にも届かない叫びは、俺のなかで反響して……消えた。 目を開けると、そこは自分の部屋。 ゆっくりと体を持ち上げて、両手を見つめる。 手に残るは、肉を断つ感触。 「……この時代では俺は、立派な犯罪者だな」 そう言って、笑った。
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