第1章

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記憶は消えない。 生きていた喜び 愛するひとの温もり 人を殺めた感触 訪れた死の景色。 全てを今の俺達が抱え、その事実は俺達のなかに確実に根をはっていた。 「……はよ」 「……おう」 朝、下駄箱で神楽と会う。 「……どうした?辛気臭ぇな」 神楽は俯いたまま自嘲気味に笑った。 「前のお前はあの時死んだから知らないかもだけど…さ、……俺、あの後すぐに捕まったんだよ」 俺は眉をひそめる。 神楽……華紅羅は前、唯一の家族である妹を人質にとられ、敵方の間者をしていた。 最終的には薊姫に全てを告白し、薊姫の計らいで城外へと逃れていたが、その薊姫の危機に城内へと秘密裏に戻ってきていた。 薊姫を逃す手順で華紅羅と沙那は協力関係にあったが、そのあたりで俺は死んでしまったので華紅羅の最期を知らない。 「……捕まったあとはどうなった」 「間者で捕まったんだぞ?例外なく斬首だ」 神楽は乾いた笑みを浮かべる。 「……ただ、さ」 ゆっくりと言葉を紡ぐ神楽の顔は真っ青になっていた。 神楽は己の首に触れる。 「斬首って、さ……すぐには死なないんだよ……死の感覚が今になって記憶に滲み出てきて……」 「……」 神楽の首に爪が食い込む。 おればそれを静かに外し、 「グフッ……!?なんで!?俺なんかした!?」 喉に手刀を入れた。 「暗い。辛気臭い。お前の首は繋がってるだろ、阿呆」 神楽は呆けている。 「……お前は生きてる。お前は『神楽』だ」 「……」 神楽の胸にとん、と拳をあてる。 「心臓も動いてる。今、ここで」 ゆっくりと胸に視線を下ろした神楽は、瞬きをしたあと苦笑した。 「……なーんか、お前がなんも変わってなくて安心した。……サンキュ、な」 俺はにやりと笑いかけて、言葉を続ける。 「そんなんだと、ファンいなくなるぞ」 神楽はひく、と笑う。 「おま……やめろよ、今大事な時期……」 俺は反応せず、下駄箱から上履きを取り出した。 「……口では、何とでも言える……」 神楽に聞こえない声量で、そう呟いた。
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