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記憶は消えない。
生きていた喜び
愛するひとの温もり
人を殺めた感触
訪れた死の景色。
全てを今の俺達が抱え、その事実は俺達のなかに確実に根をはっていた。
「……はよ」
「……おう」
朝、下駄箱で神楽と会う。
「……どうした?辛気臭ぇな」
神楽は俯いたまま自嘲気味に笑った。
「前のお前はあの時死んだから知らないかもだけど…さ、……俺、あの後すぐに捕まったんだよ」
俺は眉をひそめる。
神楽……華紅羅は前、唯一の家族である妹を人質にとられ、敵方の間者をしていた。
最終的には薊姫に全てを告白し、薊姫の計らいで城外へと逃れていたが、その薊姫の危機に城内へと秘密裏に戻ってきていた。
薊姫を逃す手順で華紅羅と沙那は協力関係にあったが、そのあたりで俺は死んでしまったので華紅羅の最期を知らない。
「……捕まったあとはどうなった」
「間者で捕まったんだぞ?例外なく斬首だ」
神楽は乾いた笑みを浮かべる。
「……ただ、さ」
ゆっくりと言葉を紡ぐ神楽の顔は真っ青になっていた。
神楽は己の首に触れる。
「斬首って、さ……すぐには死なないんだよ……死の感覚が今になって記憶に滲み出てきて……」
「……」
神楽の首に爪が食い込む。
おればそれを静かに外し、
「グフッ……!?なんで!?俺なんかした!?」
喉に手刀を入れた。
「暗い。辛気臭い。お前の首は繋がってるだろ、阿呆」
神楽は呆けている。
「……お前は生きてる。お前は『神楽』だ」
「……」
神楽の胸にとん、と拳をあてる。
「心臓も動いてる。今、ここで」
ゆっくりと胸に視線を下ろした神楽は、瞬きをしたあと苦笑した。
「……なーんか、お前がなんも変わってなくて安心した。……サンキュ、な」
俺はにやりと笑いかけて、言葉を続ける。
「そんなんだと、ファンいなくなるぞ」
神楽はひく、と笑う。
「おま……やめろよ、今大事な時期……」
俺は反応せず、下駄箱から上履きを取り出した。
「……口では、何とでも言える……」
神楽に聞こえない声量で、そう呟いた。
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