第1章

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「早速で悪いんだけど、俺パス」 俺の隣で神楽はさっと手を上げて意を表す。 その声で現実に引き戻された俺は深く溜息をついたあと、視線を薊姫…否、薊から神楽へと巡らせる。 「理由を聞いても?」 薊は変わらず淡々と言葉を発する。 神楽はあー、えーっと、と言葉を濁している。 俺はまた溜息をついて、沙那と忍をちらりと見てから口を開く。 「今世の中で有名になってる『孤虎イオンズ(コトライオンズ)』ってバンド知ってるか?」 それに沙那が反応する。 「孤虎イオンズ!?今超有名な仮面バンドじゃないの!!私CD全部揃えてるのよ!」 頬を薄く染めている沙那に、俺は哀れみの目を向けた。 「そのバンドのドラム、コイツなんだ」 「……は?」 「……」 沙那はぴしりと固まって、忍は絶句している。 「……は?え?孤虎イオンズのドラムが?」 沙那はぎぎぎ、と首を神楽の方に向ける。 「……まぁねー」 神楽はあはは、と苦笑いを浮かべ、他の人には内緒だよ、と釘を指しているが沙那には聞こえていないようだ。 「……嘘……でしょ……」 沙那はショックから抜け出せていない。 「神楽がそんな事をしていたとは……前のお前とはかけ離れたイメージだな」 意識が戻ってきた忍は神楽に素直な感想を述べるほどには回復していた。 「……まさか琥珀もバンドメンバーとか……」 その言葉に反応したのは無理矢理意識を戻した沙那である。 「……!!アンタ軽音部のギターよね!?まさか……まさかそんな……」 「ねーよ。神楽と仕事とか地獄でしかねぇし」 「ちょっと待て何で俺悪口言われてんだ?」 「……話を戻してもいいか?」 薊の声で俺達はピシリと姿勢を正して視線を寄せた。 「……昔の癖は抜けない、か……」 薊は少し目を伏せてそう呟くと、す、と目線を上げて口を開いた。
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