第1章

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時は遡ること三日前。 相変わらず五月蠅い蝉の鳴き声を聞きながら俺は机に突っ伏していた。 「あっちぃー…」 「暑いのは分かるが授業中に前の席で堂々と戦意喪失しないでくれよ西園寺」 「誰がいつ先生に戦申し込んだんスか。つか何でクーラー壊れてるんスか。なんで昨日から直ってないんスか。何でこんな時に相良先生の授業なんスか。何で空は青いんスか」 「受験シーズンは戦だぞ西園寺。全クラスでクーラー馬鹿みたいに使うから止まったんだぞ西園寺。業者が来るのは明日だからな西園寺。喧嘩売ってんのか西園寺。空が青いのは光の屈折の…」 「ごてーねーにドーモー」 「お前の単位を1下げようと思う」 「元々1なのに下げたら0じゃないスか」 「来年の授業も楽しみにしてろ」 「スンマセンした」 「ハイ次は教科書48ページ…」 俺はゆっくりと顔を上げ、窓の外を見る。 勿論空が青い事を確認しているわけではなく、現実逃避の為である。 私立で頭の良い学校に入学したのが運のツキ、楽しみにしていた高校生ライフはほぼ勉強にあてられてしまった。 2年までは耐えていたが、3年のはじめの3者面談で将来の夢がないことに気付き、一気にやる気を失ってしまった。 以来、勉強になど一切手を付けなくなった。 「……早く終わんねぇかな……」 「お前の単位を1下げようと思う」 「スンマセンした」 休み時間に変わってしまった授業も終わり。 放課となった後に俺に声をかけたのは、軽音部の友人である神楽だった。 「今日部活休むから」 「ドラムに抜けられるのいつも困ってたぞ、部長が」 「仕事なんだよ、しょうがねぇだろ?」 今度また奢るからさ、と神楽はあっという間に去っていった。 ……なんて自由な奴なんだ。 ドラムに人生を捧げるとああなるのかと疑問を持ちつつ、部長に休みの連絡を入れる。 クーラーが無い部活は御免だ。 だって暑いし。 そんなワケで早々に帰るために下駄箱にやって来てその扉を開ける。 「……?」 そこには見覚えの無いものが靴と一緒に入っていた。 大きなサイズの封筒だった。
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