第1章

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「……コレ……」 俺は本と少女を交互に見た。 少女の持っている本は【白月城 薊姫】。 「知ってるの?」 少女は眉をよせる。 「……持ってる。けど読んでない」 俺は首を横に振る。 少女はそう、と短く答えると本を仕舞い、少し考える素振りを見せると顔を上げ、口を開いた。 「読んで」 「……は?」 呆ける俺に少女は繰り返し言葉を紡ぐ。 「読んで。出来るだけ早く……今日中に」 「何で?」 「……読めば分かるわ」 少女は言い放つと踵を返した。 「おい、ちょっ……」 俺は慌てて追いかけるが少女はあっと言う間に居なくなっていて、俺は廊下の中心に立ち尽くした。 「早く読んで、そしたら……一発、ぶん殴ってやるんだから」 少女のこの言葉が俺の耳に届くことは無かった。 帰宅後。 家に置いて来ていた本を目の前に置き、かれこれ30分ほどにらめっこをしている。 神楽と少女がどうしてこの本をやたらと読ませたがるのか。 どうして俺はこんなにこの本を拒絶してしまうのか。 何一つ分からないが、それでも頭の中に残っているのは二人が言った言葉。 「「読めば分かる」」 何の根拠があってそんなに自信満々に言えるのかは知らないが、二人の声、少女の目には強い意志があった。 「……読んで、みるか……」 俺は頭の中で鳴り止まない警鐘を半ば無理矢理意識の底にねじ込み、本の表紙へと手を伸ばした。
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