第1章

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『時は遡ること遥か昔、日ノ本には地図にも歴史にも残ることの無かった一つの小さな城と、その城下を囲むようにして人々が暮らしていた街があった。 城の名前を【白月城】と言い、街の人々は夜になると月の光を浴びて白く輝くこの城の元で平和に日々を過ごしていた。 城主は四代に渡り街を守っていたが、五代目当主で突然その歴史に終止符を打った。 五代目当主の名を、【薊姫】と言う。 薊姫は産まれた時から足が動かないという障害を抱えており、彼女には常に足となる人間が付いていた。 その名を【白】と言う。 この物語は、薊姫と白の信頼と愛情、薊姫の部下達との絆を綴ったものである。』   ドクンッ 俺は自分の心臓が五月蝿いほど脈打つのを感じた。 (……何だ?何で手が震える……?) ほんの数行、あらすじレベルの内容を読んだだけなのに。 俺の中の何かが、続きを読む事を拒絶する。 【薊姫】 【白】 この二つの名を見ただけで、胸が苦しくなる。 「……片思い中のガキか、俺は……」 自嘲気味に笑って、ページをめくった。 「……くっ、そ……」 やはりおかしい。 本を読み進めていけばいく程、頭痛や耳鳴りが強くなっている。 さらに、俺の頭の中では何らかの音声が流れている。 大人数なのか、ごちゃごちゃしていて一つ一つを聴きとることは出来ないが。 こめかみに指をあてて頭痛に耐えていたが、その時は突然やってきた。 『……白!』 「……っ!?」 体がびくん、と跳ねる。 今、確かに女の声で誰かを呼ぶ声が聴こえた。 大人数ではなく、一人のはっきりとした声が。 思わずあたりを見渡すが、当然何も変化は無い。 「……この辺でやめておくか……」 そろそろ頭痛も限界に近かった俺は、本にしおり代わりのシャーペンを挟んで本を閉じた。 夢を見た。 とても懐かしい、遠い昔の夢を。 景色は紅い花の埋め尽くす野原の中。 黒髪の少女が俺に微笑んでいる。 『……白!』 少女は俺に向かってそう言った。 紅い花弁を纏って。 夢の中の俺はそれに答えるように、彼女の髪に付いた花弁をそっと取り、口を開く。 『……姫様』
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