第1章

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目を開けた。 目尻からはひと粒の涙が伝い落ちる。 ……どうして? 変な夢を見たのは覚えている。 夢の中の光景が変に心地良かったのも。 だが、どうして俺はそんな事で涙を流しているのだろう。 ……ただ、何が大切な事が俺には抜けている。 そんな気がした。 「お、はようございます」 おかしな夢のせいでテンションが狂ってしまった俺は、なんと先生に敬語で、敬語で!挨拶をしてしまった。 「……西園寺、今日は帰れ」 「俺が真面目に挨拶したらその切り返しって何なんですか」 またしても敬語でツッコミを入れた俺は、家に帰るのではなく保健室で過ごさせてもらうことにした。 何で、と聞かれれば、うん。 出席日数が。 そんな訳で保健室の先生に事情を説明し、保健室の先生にまで気味悪そうな目を向けられながら俺はベットを借りることにした。 「琥珀が保健室とか……明日は槍が降るな」 「悪態つきに来たんだったら帰れよ」 目の前には神楽。 いつの間にか寝ていた間に来たらしく、コイツはベット横の椅子に腰掛けてニヤニヤと笑っている。 「せっかく見舞いに来てやったのに酷えなぁ」 「見舞いに来た奴の第一声かよ」 ケータイをいじりながら神楽は天気予報…と呟いている。 「お前ホント何しに来たんだよ」 「んー?」 神楽は間の抜けた返事の後、ケータイをしまったかと思うと背筋を伸ばし、俺をじっと見つめてきた。 その双眸はす、と細められている。 「……?」 何も言わない神楽に俺も空気的に話しかけられず、黙って神楽を見つめ返す。 「……」 「……」 「…………」 「…………」 「……気持ちわりい。」 「本人を目の前にして堂々と言うよなお前……」 男同士で見つめ合って気持ち悪いと口走ることに罪はあるか……否だ(俺的に)。 神楽はため息をついて、苦笑う。 「その様子だとあの本は読んでないみたいだな」 「……」 俺は少し考えて、首を横に振った。 「読んでない」 「……そうか」 神楽は俺を探るような目で見ている。 嫌な沈黙が訪れる。 ……その沈黙を破ったのは、保険室のドアが開く音だった。
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