第1章

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「失礼します」 女子にしては少し落ち着いた声が保健室に響く。 「ああ、白城さんね。いつもご苦労様」 保険室の先生がご機嫌になっている事はカーテン越しでも分かる。 「いえ、仕事ですから」 「じゃあ、お願いね」 少女はゴソゴソと何かをしている風であったが、突然左側のカーテンが開いた。 少女は黒髪のショートカットで、右目を隠すように前髪で覆っている。 その双眸は歳相応とは言えないほど凛としていた。 「……?」 少女は俺をじっと見ると、口を開いた。 「体調は」 「……微妙です」 思わず敬語で返事をしてしまったが、ここでいつも来る爆笑が無いことに気付く。 カーテンが開いている位置よりも左に座る神楽を見ると、何故かその顔は驚愕に染められていた。 「お大事に」 少女は短くそう告げると、また勢い良くカーテンを閉めた。 「神楽?」 俺は固まったままの神楽に声をかける。 「……こ、はく……」 神楽はがくっと力を抜いて項垂れた。 「……俺もう駄目かもしれない」 「今更かよ」 「あまり平和な会話じゃ無いわよね貴方達」 保険室の先生はカーテンを開けて、俺の額に手を当てる。 「もうすぐ放課だけど、帰れる?」 「うお、マジか……帰ります」 俺は眠っていた時間に衝撃を受けながら保健室を急いで出た。 後ろに神楽を引きずって。
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