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燦々と日差しが照り付ける夏のある日。
今年最大の暑さとなった今日。
いたるところで蝉がメスを求めて鳴いている。
そんな暑さの中を俺【間桐海翔】はビニール袋をぶら下げひたすらに歩いている。
「あぢー。こんなに暑いと買ったアイスが溶けちまう。」
愚痴をこぼしつつ、ビニール越しからアイスを確認するが、どんな状況になっているか確認はできなかった。
唯一、ペットボトルのお茶に沢山の水滴が落ち、その下のお弁当に垂れているのは確認できた。
俺は深くため息をついて、帰路を急ぐ。
数分後、マンション入り口の自動ドアを潜り、セキュリティを解除してエレベーター前で止まる。
日差しがなくなった分、外に比べるととても快適な空間だった。
エレベーターを上がり、4階で降り403号室の自分の部屋のカギを開け、扉を引く。
と、同時に冷たい風が俺の体を包み込んだ。
「ただいまー。」と一言発するも、返事はない。
一人暮らしをしているため当たり前だ。
母親が死んで、もう九年になる。
父親は一度も会ったことがないが、母さんがいうにはとてもスゴイ人らしい。
母さんの父さん、つまり俺の祖父は大手会社の社長で母さんもその会社で重役だったらしく、お金に不自由はしていない。
けれどそれじゃ申し訳ないと思い、獣医を目指してみるも、あえなく撃沈。
今年の四月からここで一人暮らしを始めさせてもらい、自宅浪人という名のニートをしている。
それまでは祖父祖母と暮らしていた。
俺は靴を脱ぎ、急いで冷蔵庫になめらかになったアイスを放り込む。
少し冷たさが残るビニール袋の中から弁当とペットボトルを取り出し、遅めの昼食を取り始めた。
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