苦味は甘味の後味

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  俺がここに出入りできることを 知っている受付の女に 挨拶をしながら通り抜け、 一番奥のブースに入った。 ここのオーナーは、 外の仕事がない限り ここに詰めている。 そいつは、 遠慮することなく 入ってきた俺を見て 肩を竦めた。 俺とそう変わらない時期に デビューした、 敦賀陣(つるがじん)。 そこそこ歌えるのだが、 本人の弁によると 本業はコンポーザーらしい。 俺もそう思う。 「……拓海。お前、暇なの?」 「いや、忙しい」 「ならどうしてここに来れるんだよ」 陣は口ではそう言うが、 目が笑っていた。 「抜けてきた」 「お前ってやつは」 .
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