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後ろに残してきた人達に、理紫が背中を向けたまま、足も止めずに何かを言った。少しの間の後、わっと騒ぐ声が大きく耳に入ってくる。
「え……?何? 」
驚いて振り向こうとすれば、「いいから 」と止められた。
「色々とやらなきゃいけないことはあるけど、……先ずはこれを何とかしよう 」
海月の髪の短くなったところを一房摘むと、痛そうに眉を寄せる。
海月はその手に自分の手を重ねて、にこっと笑った。
「短く切り過ぎちゃった、かな? 」
「海月…… 」
「だって、あの子より切らなきゃ、あの子がずっと罪悪感を持ったままになっちゃうでしょう? 」
そう言ったら、理紫が端正な顔をつらそうに歪めた。そんな表情、させたい訳じゃないのに。
「でも、私も悪かったのかも。」
「どこに、海月に悪いとこなんてあるんだよ 」
間髪入れずにそんなふうに言ってくれるから、言っても大丈夫かなと思う。
「私だって、いくら怒ってたからって嫌なことしちゃった 」
何を?という顔をしている理紫に、「理紫とのこと惚気ちゃったもの 」と言えば、「え、どこで? 」と返された。
「だって、つ、妻ですとか言っちゃったり 」
チラリと理紫を見ると、やっぱり「?」な顔をしている。これ以上言わなきゃいけないのだろうか。
「優しかったり、努力家だったり、意地悪だったり、皆の知らない理紫を私は知ってるんだから、とか 」
あんなこと言わなくても良かったのに、何だか悔しくて言ってしまった。
「私は理紫の特別なんだからって、自慢してるみたい。自惚れ過ぎだよ、本当に嫌な子だよね 」
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