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言っていいものかどうか、口をつぐんでいる海月に戸田が促す。
「いいの、何て言ってた? 」
「あの…… 」
「ん? なになに? 」
笑いながら、努めて明るく聞けば、海月がやっと口を開いた。
「……えた、って」
悪いことを言っているかのように、俯いて視線を落としながら言葉を落とす。
「……間違え、たっ……て 」
……アイツはこの子にどんな風に説明したんだろう。
思わず、戸田の口許に本当の笑みが浮かぶ。
あの、誰もが認める色男が、慌てふためきながら言い訳している姿が頭の中に浮かんで、少しだけ胸がすいた。
私のことを、あんな振り方した罰だわ。
どんなことがあったって諦めないと誓っていたのに、こてんぱんにやられて、追いかけろと西条に唆されても、もう動くことも出来なかった。
「そうよ、間違えたって言うのよ? 失礼しちゃうわよね 」
そう考えると、戸田は可笑しいんだか、悲しいんだか、分からなくなった。
とにかく、笑いたくなる。
……あの日、談話室のソファーで寝てしまった理紫を起こしてあげようだなんてしなきゃよかった。
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