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それなのに惹き付けられて、もっと見てみたくて、音を立てないようにそっと顔を覗き込む。
間近に見る端整な顔立ちに、うっとりと見惚れた時だった。
「……つ、き?」
空気が揺れたと思った途端、名前を呼ばれた。
ゆるやかに身動きした理紫の手から、床に落ちるノート。
小さな音だったけれど、その音は静かな部屋に響いて、驚いた戸田が反射的に離れようとすると突然腕を掴まれる。
そのまま、引かれて、気付けば理紫の上に倒れ込んだ身体は、力強い腕に抱き締められていた。
「ど、したの? 」
「……っ! 」
「どうして、ここにいるの? 」
まだ寝惚けた、舌足らずな声で耳元に囁く。
ーーー夢かな? でも、すっげ、……嬉しい。
けれど、今まで1度も聞いたことのない、その優しくて柔らかく甘い声は、鼓膜の奥に響き、芯に落ちて身体を震わせた。
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