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冷静に考えればそんなことはないと分かったのに、あの時は嬉しさと欲しい気持ちでいっぱいで、そこまで考えることが出来なかった。 「悪かった」の言葉も、こんな場所でこんなことをして照れているのではないかと思ってしまうくらい。 結局このことは、廊下を通り掛かった古山さん達に見られてしまっていて、二人共、その後何日にもわたり、再三からかわれた。 どうやら、あちらからの角度だと、本当にキスしているように見えたらしい。 けれど、否定するサトとは反対に、私は曖昧に答えた。いや、肯定とも取れる態度を取った。 見たこともない《彼女》なんて、知らない。 第一、自分が知らなかった、ふわふわとしてあまったるい空気を纏ったサトを、他の子が知っているなんて認めたくもなかった。 きっと、あんな風に優しく触れて、「愛してる」と囁くのだと知ってしまったから。 だけど、どこかでは分かっていた。 あの後、私だと気付いた瞬間に戻ったいつもの表情に、抱き締められた時とは違う、別の痛みを胸に感じていたから。
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