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梅雨は開けて、太陽がビルの谷間から顔を覗かせる。
その光は赤く地上を染め、ゆっくりと熱量を与えながら黄金色に輝き始める。
外は『夏』と呼ばれるに相応しい温度と湿度をはらんだ世界だと言うのに、この部屋の中は心地よい風がゆっくりと流れる。
いや、少し肌寒いと感じるほどの温度は、ベッドの中で誰かと寄り添えば心地よいと感じるほどの空間。
そんな中で彼女は目を覚ました。
頭の下にある腕からはトクン、トクン、と彼の鼓動が聞こえる。
ゆっくりと目を開けると、見えるのは悩ましいほど綺麗に浮かび上がった鎖骨。
その上に目を見向けると、瞳が閉じられていても「綺麗」としか形容のしようがない整った顔。
見慣れることのないその顔にヒナは頬をほんのり赤く染め、擦り寄るように彼の胸に顔を埋めた。
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