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 彼が倒れ、彼が冷たくなった頃。俺は走り出していた。  肉塊と化した彼の最後の願いを。というか、我侭を聞く為に。  彼は最後に何と言ったっけ? そうだ。 「頼む、コレをあいつに…あいつに届けてくれ…」  最後の方は聞き取れなかったが、そう言いながら彼の差し出した便箋―安っぽくてヨレヨレの―には、彼の本名が“描いて”あるだけだった。  たったそれだけ。それだけの事を言うだけの為に彼は俺を抱いて家まで帰ってきたという。  きっとコレは彼の恋人に宛てた手紙なのではないだろうか。  若しくは兄弟?親?いや、きっと恋人だと思う。こんなにヨレヨレになるまでこんな紙切れを肌身離さず持っていた事から、恋人だと思った。  確かにこれにはかなりの飛躍があるだろう。しかし重要なのはこれが“何なのか”でなく、今俺が“何をすべきか”なのだと思った。そう思うと走り出さずにはいられなかったし、そもそも止まるつもりなんて更々なかった。  何故なら、今夜は満月の晩でも何でもなく、故に俺は今追われているからだ。
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