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しかし俺は彼には心を開こうとは決してしないと誓っていた。勿論、助けてくれた事には感謝している。
それだけの事だった。
感謝とは行為を肯定する事であって、それを今俺がする事はできない。何故なら、俺はこの先幸運に恵まれる事など絶対にないのだから。
あのまま死んでいた方が幸運だった事を示唆する状況は何もない。
そんな事を想っている時、彼は題材として俺を選んだ。
勿論、彼には恩義もあるし、その頼みを無碍に断るというわけにもいかない。
彼との協定が成立していたわけでは勿論ないが、何故だかそんな気がした。俺を描くと決めたのは随分前からで、それは出会った頃に遡るそうだ。
やはり自分を対象としてしか見ていない人間というモノに嫌気が差しながらも、それを聞いた時に自分の中に少しとは言え必要とされる事に対する喜びがあった事を認められずにいた。
絵を描く時、彼は終始笑顔だった。
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