K

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 しかし、俺はこんな絵に価値はなく、絶対に売れない絵だという事を知っていた。  彼の右手が動く度に表情が強張っていくのが分かる。右手を右に。左に。  それだけが俺の機嫌を悪くさせ、彼という存在自体を否定するに値するようだ。  包帯でグルグル巻きの右足を描いているのだろう。彼の筆の動きが細かくなった。  悪魔を描いて何になる?与えられるのは彼の与えたい喜びなんかではないと思う。単純な恐怖以外、その絵からは感じられないという事を、絵を見ずとも予測できている自分が惨めだった。    やはりというべきか、俺を描いた絵は一枚も売れなかった。  それもその筈。俺は黒猫であって、即ちその絵とは傍目からは黒猫の絵であって、俺という存在を描いた絵にはなりえないのだから。  尤も、俺という絵だからといってその絵が売れるわけもないが。  しかし、彼は俺の絵を描き続けた。恐らく彼の頭には名声だとか富とか名誉なんて言葉は存在しないのだろう。  彼は俺を描く絵には名前をつけなかった。尤も、俺が来てから俺という素材以外で彼が絵を描いているのを知らなかった。そして彼は俺に名前をつける事も勿論しなかった。
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