三年生、秋

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「部活が思ったより長引いた」 本当に悪いと思っているのか、私のほうを見もせずに淡々と謝る田中君。 私もお返しのように、全く彼の事を見ずに「全然いいよ」と言って、ベンチから立ち上がった。 早くこの場所から立ち去って、人目の付かない所へ行きたいといつも思ってしまう。 彼と並んで、彼の家へ向かう時は、大抵心の中で「どうか誰にも会いませんように」と唱え地面を見つめながら歩いている。 学校の人と出会すのが嫌なので、私たちは外ではあまり会わない。ほとんど、どちらかの家で会っている。 一応付き合っているけれど、歩いている際、手を繋いだりなんかしない。 人に見られたら嫌だから繋ぎたいとも思わない。 今まで手を繋いだことは二度あるが、それは仕方なくとった行為であって、触れたくて、したんじゃない。 定期的に会って遊ぶけれど、普通のカップルのような甘い触れ合いはない。 私達は、恋人というよりも、親友といった関係に近いのだと思う。 「今日撮った志田の写真、面白いんだけど見る?」 田中君は、映画が好きで会っている時は、映画の話か、同じ部活の志田君の話ばかりする。 志田君は普段全く印象に残らない、存在感のない感じの人だけど、田中君の話を聞いている限りとても面白い人だった。一緒に歩いていると、突然消えたかと思ったら密かに田んぼの中に落ちていたらしい。聞いた時飲んでいたジュースを噴き出したのを覚えている。 「この写真さ、志田イワークみたいじゃない?」 田中君が見せてきた写真に、私はつい吹き出してしまった。 志田君が部室でお茶を飲んでむせた瞬間を撮った写真だ。咳き込んでいるから長い顔がよけい長く見えた。 その後すぐに、「……ひどいっ!失礼すぎます」と付け加えた。 そんな私に、彼は「そう言いながら、笑ってんじゃん」と言って笑うと、私の頭を、指で軽くツンとした。
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