三年生、秋

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部屋へ入ると、田中君は飼っているウサギによっと挨拶をし、首に下げていた黒いビデオカメラをそっとクローゼットの中に置いた。 その後、持っていたカメラとはまたちがった、古びたビデオカメラに付いた綿埃を指先でそろりと除去した。 もう一方のカメラは、古いが、どうやらとても大切な物みたいだ。 前に遊びに行った際、私がそのカメラのことを訊くと、田中君は自慢気にそれを見せてくれた。 「お嬢さん、なんか飲む?」 私がテレビを見ていると、田中君が気を利かして訊いてくれた。 私は「うん、じゃあこの前のやつもう一回飲みたいな」とテレビ画面を見ながら応えた。 しばらくすると田中君はアイスのチャイミルクティーを作って持ってきてくれた。 お母さんが好きで貯め買いして来るから大量にあるのだそうだ。 そして、それを机の上に置いて私の隣に座った後「どこまで見たっけ?2?」と言ってこの前観た映画のシリーズ3をつけ始めた。 田中君はかなりの映画好きで、一緒にいる時は二人で映画を見ているのがほとんどだ。 私は映画はそこまで興味はないけど、見たら見たで面白いので一応彼に合わせて見ている。 難しい映画の内容を私が理解できず、田中君に確認した時なんて、彼はいつもより三倍くらい楽しそうな顔をして得意気に説明してくれる。 また、それに興味を持った回答を付け加えると、欲求がすべて満たされたような顔をするのだ。 付き合って一年近く経つけど、私たちは同じ部屋で二人で過ごしていても、キスすらしたことない。 キスなんて、今時小学生でもしているのに、私たちはしない。 それは、きっとお互いがお互いに恋愛感情を抱いていないから? だ。 では、なぜ付き合っているのかと訊かれると、それは未だによくわからない。 つまり、私にも、ちゃんと説明できないのだ。
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