プロローグ

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田中君の変なところはまだまだたくさんあった。 田中君は、選択授業の時間、二時間ずっと何もせずに教科書だけを見つめていたらしい。 考える人のようなポーズをとりながら、ただひたすら本を凝視していたみたいだ。 また、田中君の後ろの席の男子がテスト返しの際、彼の回答を見たらしいが、数学のテストでは、普通の方程式の数式の下へ、公式ではない、難しそうな長い式を書いていたのにも関わらず、答えは全て合っていたそうだ。 しかし、時間が足りなかったのか、最後の二問だけは空欄だったらしい。 どうして公式を使わないのだろう。 最近ランニングを始めた篠崎先生は、朝五時半に田中君が歩いているのを見たと言っていた。 田中君は、犬の散歩をしていたのでもなく、ランニングをしていたのでもなかったようだ。手ぶらで、しかもちゃんとした私服で、目も擦らずに歩いていたそうだ。 田中君は、そんなに朝早くから、いったい何をやっていたのだろうか。 私は噂話がとても怖い。 自分が話題ではなくても、今後話題にならないように必死に気を張り巡らせておかなければならないから。 だけど、田中君の噂話は、そんな緊張感も忘れるくらい謎すぎて、面白くて、自然と追いかけたくなるような内容で、 私のすたびれた心に、興味を落としていった。
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