小さな天使と大きな悪魔。

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「あんパン」 私は昔、見ていたアニメのおまじないを真似て声に出した。緊張したり、勇気がでないときやり遂げたあとに何か食べたい物を頭の中に思い浮かべて、声に出すというおまじない。心の中でうまくいきますようにと何度も何度もお祈りをして、放課後のチャイムが鳴り響く。ガヤガヤと騒がしくなった教室から出て行く、あの人の背中に声をかける。 「……先生」 気づいてもらえただろうか、私は中学生だけれど、身長はなかなか伸びず、小柄なほうだから、ガヤガヤとうるさい教室では私の声なんてかき消されてしまうと心配していたけれど、 「ん? 安原か、どうした?」 杞憂に終わり、先生が振り返り声をかけてくる。身長差があるせいか、先生から見下ろさている気分だった。 「授業でわからないところがあったので、教えてほしくて、お時間、ありますか?」 私、安原田波(ヤスハラ、タナミ)は少しでも大きく見せようと学生鞄を両手で抱えて言う。こんなことしても無駄なのに、先生との身長差を縮めたい。 「あー、先生、ちょっと職員室に用事があるんだ。安原、先に理科室、行っててくれ、これ、理科室の鍵な」 先生は無造作にポケットから理科室の鍵を取り出すと、私の手に置く、ほんの少し肌が触れ合い、一瞬で離れた。トクンと心臓が高鳴った。それをごまかすように私は、 「先生、そうやって学校の鍵を持ち歩いていると、教頭先生に怒られますよ」 「あー、それは言わない約束だろ。安原、だってさ、いちいち職員室に鍵を取りに行くのめんどくさいし、俺、以外に使わないだろ」 「ほかの生徒さんが、この前、理科室の鍵がないって困ってたの忘れたんですか?」 「わすれた、せんせい、わすれた」 「ロボットの真似をしてもダメです」 「安原が厳しい、先生、泣きそう」 「泣いてもダメです。反省してください」 あいあいと先生が適当に返事をしながら、私の頭をわしゃわしゃと撫でた。 「なんで、撫でるんですか!?」 「そこに頭があるから」 「登山家みたいなセリフでごまかさないでください」 ムキーッと両手をブンブンと動かすが先生はヒョイヒョイとかわして。 「安原がちっこくて先生の撫でやすい位置にいたから」 「身長のこと言ったーーー、気にしてるのに!!」 「安原は小さいからなー、怒るな、怒るな」 ケラケラと笑いながら、また私の頭をグリグリして先生は職員室に歩いて行った。
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