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プリプリ怒りながらも、私は理科室の鍵を開けてる。理科室からは薬品の匂いがフワッと漏れてくる。他の生徒には不人気だけれど、私は嫌いじゃない。先生が来るまで予習をしておこうかとも思ったけれど、そういう気分になれず、私は鞄から一冊のノートを取り出した。
『ある街の教会に一人のシスターがいた。彼女は気立てがよく、働き者で街の人からは天使のようだと言われていた。
けれど、シスターは内心ではそうではないとずっと思っていた。街の人に笑顔で挨拶しようとも、困っている人を助けようとも、怪我人がでれば治療しても、彼女の心の中には黒いもやがずっとある。
シスターは、それを不浄な者として嫌っていた。彼女は神に仕える者だ。だから、心に不浄な者があることが許せない。人の心には悪魔が住む、シスターも人間だ。当然、彼女の心にも悪魔が住んでいる。
悪魔は日に日に大きくなっていく、その悪魔がシスターにささやくのだ。本当はこんなことしたくないんだろう? 好きな男の妻になりたいんだろう? と、ケラケラと笑う、悪魔。
シスターには一つ年の離れた幼なじみの青年がいる。毎日、教会までいろんな物を送り届けてくれる心優しい青年の幼なじみ。シスターはいつからか、彼に恋心を抱いていた。
しかし、シスターは神に仕える者、恋など許されるわけがない。その気持ちが不浄となって彼女の心を蝕む。
彼と一緒になりたい自分、シスターとして一生を捧げようとする自分、いったいどっちが本当なのか迷う。それがさらなる不浄になっていく。
シスターは悩んだ。どうすれば──』
私はそこでノートから顔をあげた。途中まで書いた小説の結末が決まらない。このままシスターをするか、それとも幼なじみの青年に気持ちを打ち明けるか、私にはどっちにするか決められない。
私は恋をしたことがない。誰かを好きになったことが一度もないだから、シスターの気持ちが途中までしか書けない。
どっちを選ぼうとも至難の道であることは間違いない。シスターはそう簡単にやめられる職業でないからだ。かといってシスターを続けても彼女の気持ちをうまく書けると言い切れない。否定的な意見ばかりが頭に浮かび、
「ほー、今度は恋愛小説か」
「あ、ひゃっ、ほぅひー」
「落ち着け、落ち着け、何を言っているかまったくわからんぞ」
「な。なんでいるんですかぁー」
「そりゃ俺が理科の教師だから」
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