2人が本棚に入れています
本棚に追加
と言いつつ、向かい側の席に座り、先生はヒョイッとノートを引き抜き、ペラペラとページをめくり、フムと読む。恥ずかしさに顔から火がでるようだった。自分の書いた小説(?)他人に読まれるなんてーー、先生は私が物語を書いていることは知っているけれど、それでも恥ずかしい。
「軽く読んでみたけれど、これってシスターがどっちを選ぶかで物語の結末が大きく変わるよな、それで悩んでいる」
「なんでわかるんですか?」
「だってノートの下のあたりに消しゴムで何度も消したあとがあるし、一人、うんうん、唸ってたから」
見事に見抜かれている。そうだろと得意げに笑うところがちょっと悔しい。
「そーですよ。でも、私は恋愛とかしたことないから、わからないんですよ」
わからないなりに書いてみたら、もっとわからなくなった。
「別に安原の好きなように書けばいいと思うぞ」
と先生は言う。
「好きなようになんて言われても無理なです」
私にはこの物語の結末を書くことができない。幸福な未来か、悲恋な結末か、どっちがいいかわからないのだ。
「じゃあ、ゆっくり書いていけばいい」
先生は軽く答えた。
「安原はこれから大人になっていくだろ? そのときに感じたことを物語にすればいい。別にそう急いで結果を出す必要はないんだ。人は迷っていいんだよ」
先生はいつものように、私の頭に手を置いた。
「誰の心にも悪魔は住んでいるだから、人は成長できるんだ。な?」
「よく、わかんないです」
「そのうちわかる。大人になってから、ああ、あの頃の私はこんなこと思ってたんだなって懐かしく思うことがあるんだ。安原だっていつか、恋をするさ」
「無理ですよぉ、私、ちっちゃいですから……」
「そうか? 俺が同級生だったら、安原のことほうっておかないけどな、天使みたいに可愛いし」
「にゃ!? なゃにゃにゃにゃにゃ、なにを言ってるんですか、先生!!」
あうあうとほっぺたが熱く染まり、いまだに頭の上にある大きな手が心地いい。両手をパタパタさせて抗議すると、先生はケロッと笑い。
「なーんて、嘘だ。お前みたいなちびっ子なんて相手にするわけねーだろ」
「だ、騙しましたね。乙女の純情を弄びましたね。許しませんよ」
「おーちびっ子が怒った。さあ、どんとこいや!!」
先生がケラケラと笑い、私はプリプリと怒る。こんな時間が続けばいいなと少し思った。
最初のコメントを投稿しよう!