すきとおった森で

5/6
前へ
/6ページ
次へ
「やあ、来たか。トモヤ」  振り返ると、ユズキがそこに立っていた。 「待っていたよ」 「ユズキ」 「ついて来い、トモヤ。お前に見せたいものがあるんだ」  ユズキとぼくは、すきとおった森の中を進んでいった。  風が吹くたび、ガラス細工のような木の葉が、いっせいに音楽を奏でる。 「まわりを見ろ、トモヤ」  すきとおった樹木の中で、ちろちろと青い焔が燃えていた。 「これは命の焔」  ユズキは、一本の木に手を当てた。  すきとおった樹木の中で、赤い焔が燃え盛っている。 「ほら、トモヤの焔は、まだこんなに盛んに燃えている。だけど、そうじゃない命もあるんだ」  ユズキは、またもう一本の木に手を当てた。  そこに焔は見えなかった。 「この木には、もう命が通っていない。やがて崩れて、砂に返ってしまう」  気がつけば、焔が燃え尽きた木も、まわりにはたくさんあるのだ。  焔の燃え方は、それぞれ違っていて、どれ一つ一つとして、同じものはなかった。  揺らめきながら、燃えている焔。  線香花火のように、かすかな火花を散らしながら燃えている焔。  点滅を繰り返しながら燃えている白い焔。 「それぞれの命のあり方が違うように、焔の燃え方もそれぞれに違う」 ユズキは言った。 「命のあり方」 「たとえばトモヤの命のあり方と、俺の命のあり方は違う。ほら、見ろ。これが俺の木だ」  ユズキは、また別の木に手を当てた。  その木の中では、小さなダイヤモンドのような焔が、今にも消えそうに揺らめいていた。 「わかるだろう? 俺にはもう時間が残されていない。だけど、ここはなかなかの景色だ。向こう岸に行くのは、もう少し後にして、ここの景色を描いてみたいんだ」 「ユズキ。どこなんだ? ここは」 「ここは命の森だ」 ユズキはきっぱりと言った。 「トモヤ。いずれにせよ、お別れの言葉を言っておくよ。お前は、きっと間に合わないだろうからな」 ユズキは言った。 「さよなら、トモヤ」
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加