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「やあ、来たか。トモヤ」
振り返ると、ユズキがそこに立っていた。
「待っていたよ」
「ユズキ」
「ついて来い、トモヤ。お前に見せたいものがあるんだ」
ユズキとぼくは、すきとおった森の中を進んでいった。
風が吹くたび、ガラス細工のような木の葉が、いっせいに音楽を奏でる。
「まわりを見ろ、トモヤ」
すきとおった樹木の中で、ちろちろと青い焔が燃えていた。
「これは命の焔」
ユズキは、一本の木に手を当てた。
すきとおった樹木の中で、赤い焔が燃え盛っている。
「ほら、トモヤの焔は、まだこんなに盛んに燃えている。だけど、そうじゃない命もあるんだ」
ユズキは、またもう一本の木に手を当てた。
そこに焔は見えなかった。
「この木には、もう命が通っていない。やがて崩れて、砂に返ってしまう」
気がつけば、焔が燃え尽きた木も、まわりにはたくさんあるのだ。
焔の燃え方は、それぞれ違っていて、どれ一つ一つとして、同じものはなかった。
揺らめきながら、燃えている焔。
線香花火のように、かすかな火花を散らしながら燃えている焔。
点滅を繰り返しながら燃えている白い焔。
「それぞれの命のあり方が違うように、焔の燃え方もそれぞれに違う」
ユズキは言った。
「命のあり方」
「たとえばトモヤの命のあり方と、俺の命のあり方は違う。ほら、見ろ。これが俺の木だ」
ユズキは、また別の木に手を当てた。
その木の中では、小さなダイヤモンドのような焔が、今にも消えそうに揺らめいていた。
「わかるだろう? 俺にはもう時間が残されていない。だけど、ここはなかなかの景色だ。向こう岸に行くのは、もう少し後にして、ここの景色を描いてみたいんだ」
「ユズキ。どこなんだ? ここは」
「ここは命の森だ」
ユズキはきっぱりと言った。
「トモヤ。いずれにせよ、お別れの言葉を言っておくよ。お前は、きっと間に合わないだろうからな」
ユズキは言った。
「さよなら、トモヤ」
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