すきとおった森で

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 枕元でスマートフォンが鳴っていた。いつの間にか、ぼくは眠っていたらしい。  電話口から、十六夜の声がした。 「一時間前から、お兄ちゃんの容体が急変したの」  十六夜は、かすれた声で言った。 「危篤だそうよ。今すぐ病院に来て!」  結局、ぼくは、ユズキの最期に間に合わなかった。  ぼくは、看護士に、そっと病室に通された。  ユズキの母親と十六夜が、ユズキの傍で、ぼくを待っていた。 「まるで眠っているみたい」  ユズキの顔を見て、十六夜が言った。 「ああ」  ぼくは頷いた。 「そうだな」  それから三日後。  ユズキは、ひと筋の煙となって、空へと上っていった。  ぼくはユズキの母親に呼ばれた。 「この絵を描くとすぐ、あの子はほっとしたように、息を引き取ったんです」  目を赤く泣き腫らしたユズキの母親は、ぼくに一枚の水彩画を差し出した。  ぼくは、あっと息を飲んだ。  それは、すきとおった森。ユズキとぼくが最期に別れを交わした、すきとおった森の絵だった。 「この絵が、何を意味するのか、私にはわかりません。だけど、あの子は一度昏睡状態になった後、はっきりと意識を取り戻したんです。そして、この絵を描いて、こう言いました。トモヤに渡してくれって。それが最期の言葉でした」  ユズキの母親は、ぼくの目をまっすぐに見て、言った。 「あなたには、この絵の意味がわかりますか?」  ぼくは頷いた。 「ええ、わかります」  ぼくは繰り返した。 「この絵が何なのか、ぼくにはわかります」  ユズキの魂は、きちんと向こう岸にたどり着けただろうか?  それとも、まだ佇んだままでいるのだろうか?  すきとおった森で。
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