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―――目眩がしそうだ。
そのピン札の匂いは、世界中のどんな煙草よりも良い香りで、そして中毒性が高い。
麻薬のようなそれが充満した車内に、覆面を被り、サブマシンガンを手にした相棒……リズが息を切らせながら飛び込む。
「やぁ。ご苦労だったね、リズ」
「うるせぇランディー! さっさと出せ!!」
「はいはい、分かってる」
あらかじめギアをローに入れてアクセルを踏んでおけば、ランディー・ミゴール……彼がしたのはクラッチを繋ぐことだけだった。
ガリガリ、というクラッチがミッションを鷲掴む音。
キャァアア、というタイヤが路面を引っ掻く音。
その発進は発車というよりも、もはや発射だった。
ポルシェ・718 ケイマン。
伝統ある流線型のボディーが纏うのは、コンテンポラリーな艶のある赤のグロス塗装。
犯行用に盗んだ車だが、そのステアリングはまるで自らの手のように馴染んでくる。
ポルシェ・718 ケイマン GTS
¥10,500,000
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