4994人が本棚に入れています
本棚に追加
/351ページ
苦労人。
きっと自分は、この部類に入っても違和感なく浸透すると思う。
両親はいない、兄弟もいない、頼れる親戚もない。
心を許せる友達は数人いるので天涯孤独とは思いたくないが、それでも金銭面で頼れる相手はいない。
やっとの思いで高校を卒業した何の資格も持たない俺が、待遇の良い会社に就職出来るわけもなく。
ついでに言うと、そんなに頭の良くない自分が行ける所なんてある程度決まっていた。
それに加えて、お金のない俺には悠長に仕事先を探している時間がなかったから。
日雇いや住み込みの仕事を繰り返して食い繋ぎ、一年後にやっと唯一自分の得意分野である料理の腕を生かして、
家から徒歩十五分にある小さな定食屋の厨房でバイトとして働かせてもらえることになった。
それから三年。
給料は、はっきり言って安い。
家賃、光熱費、食費、その他諸々を引けば、ギリギリ生活出来る金額だ。
たまにそのギリギリを割ってしまう時があり、そんな月は仕事休みの日に日雇いの仕事を入れてカバーしていた。
とにかく、お金がない。
夜の仕事も考えたけれど、小心者の俺はその世界に飛び込む勇気を持てなかったから。
そんな俺に目標があるとすれば、それは生き延びることだと思う。
ずっと闘病生活を送っていた母親が何度も俺に言った言葉。
偉くなくてもいい。
稼がなくてもいい。
ちょっとばかりダメでも、
弱くても、
頼りなくても、それでも良い。
ただ、長生きしなさい、と。
生きることが、母親の願いだと。
俺はそれをまっとうする為に、生きる。
ただ、ひたすら生きる。
最初のコメントを投稿しよう!