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「……へぇ?」
意味深な「へぇ」をいただき、俺は恥ずかしさで顔を上げる事が出来なかった。
頭の中で繰り返すのは自分への罵倒の言葉だけ。
俺の馬鹿。
よく考えもしないで言っちゃうなんて。
というか、そもそも見惚れてたことに問題がある。
どうして俺は、ゼンさんが相手になるとこうも調子が狂ってしまうんだろう?
自分とは全く違うから?
全く違う世界に住んでいて。
雲の上のような人だから?
それならきっと、時田さんだってそうだ。
でも俺は、時田さんになら普通に話す事が出来るから。
じゃあ、なんで?
「……おい、悠之介」
「っは、はい?」
ドキッと跳ね上がる心臓と同じように体が跳ね、その過剰な反応に自分でまた恥ずかしくなる。
合わしにくくなっていた視線を再び向けると、ゼンさんは少しだけ威圧するような、そして探るような目で俺を見ていた。
何かを、言われる。
直感でそう感じ、羞恥心でいっぱいの俺は思わず口を噤み視線を床へと投げてしまう。
「…………お前に言っておかなきゃいけない事がある」
いつもより更に深みを増した声が何故か近くから響いた。
その理由に気付いた瞬間、いつの間にか詰められていた近い距離に自然と体が強張った。
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