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「……はぁ」
Tシャツの端がほつれているが、それを新調する金ももったいない。
洗面台までふらりと歩き、目の前に写る、曇った瞳の凡庸な男を見据えた。
希望に満ち溢れていた半年前から見ると、自分でも酷い違いだと思う。
「誰だよ、お前」
自嘲しながら鏡に話しかける。
当然、鏡に映る男は自分だと分かってはいるが、俺自身も噴き出してしまいそうになるほど、くたびれた男の顔は滑稽だった。
傍目から見たら、才能もないくせに馬鹿真面目に努力してきた人生も滑稽であったのかもしれない。
運動も、勉強も、容姿も普通だった。
成績もまたしかりで、まさに平凡の鑑のような学生時代を過ごしたと思う。
そして、純粋な青少年だった俺は、『努力すれば誰でも報われる』という絵空事を本気で信じていた。
だから勉強せずともトップになる奴、練習せずとも足が早い奴を素直に尊敬していた。
ーーあいつ、見えないところで努力してるんだな。
だが、それは全くの筋違いだった。
どんなに努力しようがもがこうが、元から才能のある人間は、俺を尻目に軽々と駆けていく。
俺の最大の努力の結果が、才能がある人間の足元にも及ばない。
中学生のころから、それを何となく理解し始めていた。
サッカー選手になりたかった。
医者になりたかった。
これらのことは無理に決まっている。
高望みを全て捨て、現実だけを見て、更に消去法を使って掴むのが、平凡な人間の居場所だ。
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